改憲の動きをウオッチング

2020年8月18日 合併号

2020/08/12
■自民議連、「緊急事態条項案」を修正 感染症明記の提言へ
 安倍首相は、党総裁3期目の任期満了を2021年9月に迎えるが、任期中の改憲実現の旗は降ろしていない。どこまでも強気である。
 その理由を、ジャーナリストの青木理氏は、「もはや現政権下での改憲などどう考えても無理だと思われるのに、コアな支持層へのリップサービスなのか、支持をつなぎとめるための方便なのか、なおも安倍晋三首相は改憲への“意欲”を示しつづけている」(毎日)と評論している。
 麻生派のパーティに寄せたビデオメッセージでも「自民党総裁任期中に憲法改正を成し遂げたい。その決意に変わりはない」と強調して見せた(7月16日)。麻生財務相はコロナ感染に触れながら「果たして今の憲法が緊急事態に対応できるのか」と述べ(時事)、改憲論議をしっかり行っていくべきだと訴えた。
  下村博文選対委員長(前改憲推進本部長)が会長を務める「新たな国家ビジョンを考える議員連盟」は、自民党の改憲4項目の1つである緊急事態条項案の「文言はコロナのような感染症を含むか曖昧なため、適用対象を明確にする修正を提案する」(日経)。8月下旬にも議連の総会で提言を決定する。
 コロナに便乗して、行き詰っている改憲論議の糸口にする魂胆が透けて見える。
■「敵基地攻撃」―言葉を使わなくても憲法違反の本質は変わらない
  政府・国家安全保障会議(NSC)が、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画を断念するや否や、その「代替策」をめぐって自民党がとんでもない議論を進めてきた。
 7月31日、「ミサイル防衛に関する検討チーム」の報告を受けた国防部会と安全保障調査会の合同会議で、政府に対し「敵基地攻撃能力」の保有を求める提言案を了承した。
 提言案は、多くの国民の批判が強い「敵基地攻撃能力」とは明記せず、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」との表現で敵基地攻撃能力の保有を求めた。表現を変えたからといって専守防衛を踏みにじる憲法違反の本質に変わりはない。
敵基地攻撃能力の保有は、「自衛のための必要最小限度」を超える攻撃型兵器の保有を禁じてきた歴代政府の軍事政策の重大な転換となる。
 政府はすでに敵基地攻撃を可能にする巡航ミサイルの導入や海上自衛隊の「いずも」の空母化、同鑑に搭載するF35B最新鋭ステルス戦闘機の爆買いなどをなし崩し的に推し進めている。
 自民党はこれまでも敵基地攻撃能力の保有を繰り返し提言しているが、国民の理解は広がらず、政府の国家安全保障戦略
や「防衛計画大綱」に反映されたことはない。
 政府は年内にも国家安全保障戦略などを改定する方針だが、従来の軍事政策の転換になる敵基地攻撃能力の保有は断念すべきだ。
  敵基地攻撃といっても軍事技術面など、そのハードルは高い。北朝鮮は移動式発射機や地下、あるいは潜水艦からのミサイル発射技術が進んでおり、そもそも日本に向けて発射されそうになった時にキャッチするのは困難だ。アメリカや韓国でさえ北朝鮮のミサイル基地の場所を把握しきれていない。自衛隊はミサイルの位置をどのようにして把握するというのか。位置がわからないのに敵基地攻撃など不可能である。日本が敵基地攻撃すれば北朝鮮の報復攻撃は必至である。
  敵基地攻撃能力の保有は莫大な軍事費支出につながる大軍拡への道だ。政府は、「北朝鮮の脅威」を煽らず、日朝ピョンヤン宣言を基礎に、外交努力によって北朝鮮との敵対関係を終わらせるべきではないのか。(中)