改憲の動きをウオッチング

(2023年6月14日号)

2023/06/14
■首相「歴史的転換期こそ改憲に挑戦」
 中曽根元首相が率いた超党派の新憲法制定議員同盟は5月26日、「安倍晋三名誉会長を偲び、新しい憲法を制定する推進大会」を開催。
 岸田首相は、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の弾道ミサイル発射に触れながら「国際社会が歴史的転換期を迎えている時だからこそ、私たちは憲法改正に強い思いを持って挑戦しなければならない」と強調し、改憲に改めて意欲を示した。
 公明党の北側副代表は、緊急事態時における国会議員任期の延長改憲について「相当議論が煮詰まっている」と述べ、維新の会の馬場代表は「いよいよ憲法改正の時がやって来た。われわれはエンジンをかける役割を担う」と力説した(東京)。
■改憲5会派 議員任期の延長先行めざす
  改憲5会派(自民、公明、維新、国民、有志の会)の改憲の本丸は9条。国民の合意を得るのは困難とみて、緊急事態条項の一部である「国会議員の任期延長」を最優先して、改憲発議の突破口を開く戦術をとっている。
  改憲5会派は、緊急事態条項である「参議院の緊急集会」の機能などを矮小化し、平時の制度であり災害などの有事の時には使い物にならないなどと否定している。
 5月18日の衆院憲法審は緊急集会をめぐり参考人質疑を行った。
 憲法学者の長谷部恭男・早稲田大大学院教授は、任期延長の改憲議論について「衆院議員の任期を延長すると、総選挙を経た正規のものとは異なる国会が存在し、法律が成立することになる。緊急時の名を借りて、通常時の法制度を大きく変革する法律が次々に制定されるリスクも含まれかねない」と指摘し、「任期延長された衆院と、それに支えられた政権が長期に居座り続ける『緊急事態の恒久化』を招くことにもなりかねない」と強調。「衆院議員の任期を延長し、政権の居座りを認めるのは、本末転倒の議論ではないか」と警鐘を鳴らす。
 最後に長谷部氏は、「参院の緊急集会は十分な理由に支えられた制度で、新たな制度を追加する必要性は見いだしにくい」(東京)と強調した。
 5月31日、参院憲法審でも緊急集会をめぐり参考人質疑を行った。
  参院憲法審にも出席した長谷部氏は、「(緊急集会を定める)憲法54条が日数を限っているのは、現在の民意を反映していない政府がそのまま政権の座に居座り続けることのないようにという考慮からだ。緊急集会の期間が限定されているように見えることを根拠として、衆院議員の任期を延長し、政権の居座りを認めるのは、本末転倒の議論だ」(東京)と改めて強調した。
 土井真一京都大教授は「緊急事態は権力の簒奪(さんだつ)や乱用が行われる危険性の高い時期なので、これを防止するための仕組みは国会で慎重に検討いただくべきだ」(同)と警告した。
  「参議院の緊急集会」は、戦前の反省から「緊急事態につけ込んだ国家権力の暴走を防ぐための仕組み」である。(中)