新社会兵庫ナウ

私の主張(2021年8月24日号)

2021/08/24
2021年防衛白書
台湾情勢に強く傾斜 危険な日米軍事同盟の強化

 
 菅内閣が7月13日に閣議了解した「2021年防衛白書」では、台湾情勢の安定が「わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要だ」と初めて明記された。
 また、防衛白書はここ数年は対中分析が最大の項を占めていたが、米国と中国の政治や経済、軍事面にわたる競争が顕在化していると指摘し、「米中関係」に関する項目が新設された。
 その「米中関係」項目では、「近年、米中両国の政治・経済・軍事にわたる競争が顕在化してきている。中国は自国の『核心的利益と重大な関心事項』については妥協しない姿勢を示す一方、米国は自国の安全保障のために妥協しない姿勢を示しており、今後、様々な分野で米中の戦略的競争が一層顕在化していくとみられる」と分析、「わが国としても一層緊張感を持って注目していく必要がある」とした。
 また、2021年3月の米議会公聴会で「インド太平洋軍司令官は、インド太平洋地域での軍事バランスは米国と同盟国にとって好ましくない状況になっており、中国による現状変更のリスクが高まっていると指摘。中国の台湾に対する野心が今後6年以内に明らかになる旨証言した」ことも記述している。
 さらに、中国については「過去30年以上、透明性を欠いたまま国防費を増加させており」、「米海軍を上回る規模の艦艇を保有し、世界最大とも指摘される海軍海上戦力の近代化が進められている」とし、海警法による尖閣諸島周辺の活動は、「国際法違反」と批判している。
 その上で、台湾については「台湾周辺で、中国は軍事活動を活発化させている。台湾情勢の安定はわが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとって重要であり、いっそう緊張感を持って注視する必要がある」として、台湾情勢の安定が日本の安全保障にとって重要であるとの認識を初めて明記した。
 中国による台湾侵攻への危機感を強めている米国は、4月の日米首脳会談での共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」という文言を盛り込ませた。麻生副総理は7月の東京都内での講演で、中国が台湾に侵攻した場合、集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法の「存立危機事態」として対処すべきだとの見解を示した。日本が集団的自衛権を行使することもあり得るとの考えを示したもので、日本政府は米中対立に便乗して、台湾海峡も日本の安全保障上の脅威として戦争法を実質化しようとしており、白書では、「わが国自身の防衛力を強化」するとともに、「揺るぎない日米同盟の絆をさらに確固たるものとするべく、同盟の抑止力・対処力の一層の強化に努める」と表明している。
 さらに、土地利用規制法についても言及し、「防衛施設の機能発揮を万全にする観点から大きな意義がある」としている。
辺野古新基地建設については、普天間基地の「継続的な使用を回避するための唯一の解決策」という考えを維持、米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)の移転に向け、馬毛島の約9割の土地を取得したことを明記し、さらに昨年配備を断念したイージス・アショアにかわるイージス・システム搭載艦2隻配備の推進も記載している。
 これらは、日米安保や軍事力強化、ひいては9条改憲を目論みながら、辺野古新基地建設、馬毛島の自衛隊の対中国拠点化など地元の反対を押し切るための世論操作でもある。
  すでに日米は台湾有事を想定した共同訓練を南シナ海や東シナ海で繰り広げており、沖縄県内でも台湾情勢を念頭に置いた訓練が活発だ。
日本は経済面で中国や台湾と深い関係にあり、いま日本に求められるのは、米国の強硬姿勢と一体化せず、日本独自の外交路線で対話を重ね、平和的に米中の緊張を緩和させる役割であり、いたずらに軍事緊張をあおり、軍事対応の強化に突き進むことではない。いまあらためてアジアの緊張を緩和する憲法9条の意義を再確認することである。
中村伸夫(憲法を生かす会・ひょうごネット事務局)