新社会兵庫ナウ

私の主張(2021年4月13日号)

2021/04/13
みんなで反対運動に取り組もう 75歳以上の医療費窓口2割負担

 現役世代の人たちには高齢者の医療保険のことがあまり知られていないと思われるのではじめに少し説明をしておきたい。
 1960〜70年代には各市町村で独自に老人医療費の無料化が進められた。ところが、83年に老人保健法が施行され、高齢者の自己負担が外来1ケ月400円、入院1日300円と有料になり、以降、徐々に変更されて2008年までは75歳以上は自己負担が1割で診療が受けられ、国民健康保険や健康保険組合に加入して老人保健制度が適用された。08年以降は後期高齢者医療制度が施行され、75歳以上の人々が国民健康保険や健康保険組合から切り離され、独自の後期高齢者医療保険となった、大多数の人は医療窓口負担が1割であり、現役世代と同等の所得のある人は3割負担だ。後期高齢者医療費は、公費(税金)が約5割(国:県:市町=4:1:1)、現役世代の各保険からの支援が4割、それに被保険者(後期高齢者)の保険料並びに窓口負担(1割)で賄われている。
 昨年末、「全世代型社会保障検討会議」が最終結論を出し、それに沿った閣議決定がされ、いま国会に上程されているのが、今回の後期高齢者医療費窓口2割負担(倍増)である。今般の改悪では医療費窓口負担が2割になるのは年収200万円以上の単身者、及び320万円以上の2人(夫婦)世帯が対象となり、後期高齢者人口の約23%(370万人)が2割負担になる。引き上げ時期は22年10月以降に予定されている。  
今回の問題点を挙げてみる。
 ①19年、内閣府に「全世代型社会保障検討会議」が設置され、安倍前首相が「100年を見越した社会保障」と豪語したのが、検討会議では「現役世代の負担上昇を抑えるのは待ったなし」を理由として、高齢者に負担増を求める社会保障である。
 ②後期高齢者人口の増加は数十年前から分かっていたことであり、敗戦後の1947年から50年に誕生した人たちが団塊世代と言われて、22年から順次後期高齢者の75歳となることから「22年問題」と言われている。団塊世代の孫の代まで施策をせずに、今日まで引き摺ってきたのである。
 ③後期高齢者医療保険は75歳以上の高齢者のみを被保険者にした保険制度であるが、高齢者は75歳前後より通院回数が急増し、持病を抱える人が大多数である。このような保険制度が成り立つはずがない。高齢者の医療費を際立たせ現役世代との世代間に利害関係があるかのように見せているのである。
 ④社会保障制度は弱者(高齢者・要支援者)を支えるのが本筋で、受益者負担を持ち出して弱者に負担を強いるのは弱者いじめの施策である。今、必要なのは高額所得者及び内部留保を貯めこんでいる企業(数年間減税を繰り返した部分)から税を引き出し、公費負担を充実させるべきである。社会保障に充てるとした消費税の増税分は何処に行ったのか解明されるべきであろう。
 以上の点から2割負担増で見えてくることは、後期高齢者の窓口負担の平均額が1人当たり現在より3、4万円増えて11・7万円になる。現役世代の各種保険からの後期高齢者医療費への支援金が、厚労省の試算では21年度の6・8兆円から25年には8・1兆円に膨らむとしている。しかし、2割負担増での現役世代の各種保険からの支援抑制効果は830億円(内事業主負担分340億円)が軽減され、現役世代1人当たりにすると800円で、労使が折半すると月に30円程度である。
 さらに、①自民党は以前から2割負担の対象者を年収170万円以上と主張してきた。②昨年末の全世代型社会保障検討委員会の最終報告の中には今後も「後期高齢者支援金の負担軽減(後期高齢者の負担増)」が明記されている。③厚労省幹部は今回の負担増(現役世代の30円軽減)では効果薄としている。④使用者側は保険負担軽減を求めている。
 自民・公明の多数によって今国会で2割負担増が可決されるであろうし、更なる改悪が早晩迫ってくるであろう。現代の後期高齢者も、また、今の若者が後期高齢者になって病院に行くのをためらう姿が想像される。現役世代の多くの人が後期高齢者医療保険の存在を知って、自らの将来の姿を思い浮かべ高齢者と共に声を上げることを望むのである。
 熟年者ユニオンは以上の観点に立ち、現在、2割負担の反対署名活動を行い、街頭や各種の集会の場で協力を求めている。さらにはたとえ国会で可決されたとしても廃案を求めた活動を継続することを確認している。こうした長期的な運動が社会保障の充実を求める運動と繋がっていくことを期待している。
菅沼祥三(熟年者ユニオン神戸支部長)