新社会兵庫ナウ

若者のひろば(2023年12月27日号)
幅広い研究活動への投資を

2023/12/27
 今年9月、政府が創設した大学ファンドの支援対象の大学に東北大学が選ばれた。 この大学ファンドは、政府が 10 兆円規模の出資を行って資金運用を行い、その運用益を文部科学省が「国際卓越研究大学」と指定した大学に対して資金援助を行うというものだ。
 大学ファンドの目的は、日本の研究力を高めるため、というものだ。もちろん自分も日本が他の国と競い合えるような研究力は持たなければならないと思うし、そのために大学に対して資金援助を行うということにも一切異論は無い。しかし、大学ファンドのように限られた大学のみに資金を集中させるというのは、やり方として合理的であるとは思えない。
 日本の研究活動の国際競争力を高めるのであれば、何より行わなければならないのは研究者そのものを増やすことや、現在研究活動を行っている研究者をしっかりと支えることである。しかし今回、政府及び文部科学省が行っているのは「国際卓越研究大学」に指定された大学のみの支援に限定しており、幅広く支援するというものではなく、恩恵にあずかれるのはほんの一握りの研究者のみだ。さらに研究費用も一部の分野にのみ絞られてしまうと、同じ大学の中でも研究分野によって格差が生み出されてしまう。
 国が特定の分野で成果を出して欲しいと願うのは不自然なことではない。しかし、研究か活動で初めから「この分野のほうがこっちの分野よりも成果が出る」というようなことがハッキリと分かることはない。初めから資金投入の「選択と集中」を行っているのであれば、国の望むような研究力の向上はとてもではないが望めることではなかろう。
 本当に行わなければならないのは、分野や場所にこだわらず、大学での研究活動全体への幅広い支援及び、人への投資ではないだろうか。国全体の研究力を高めたいのであれば、言うまでもなく研究者が増えなければならず、そのためには研究者を志している大学院で研究する学生も今以上に増えなければならない。彼らへの支援という人への投資も同時に行わなければならず、そもそも研究者になりたいという人間が国内で増えなければならない。そのための、分野や所属大学を問わない研究費用の援助や、学部生と比べて少ない院生の奨学金や学費の減免措置などに資金投入を行うべきではないだろうか。
 研究力がどんどん落ちている日本の現状から政府が今回の大学ファンドのような方針を打ち出したという内容が新聞記事に出てくる。改めてであるが、そこに手を打とうとすること自体は全く否定するものではない。それでも必要なのは、そこで限られた資金を現在進んでいる分野のみに集中させることではなく、様々な分野への投資及び研究活動を行うための環境整備、次世代の子どもや現役大学生が研究者になりたいと思えるように、しっかりと裾野を広げるといったことではないだろうか。
 政治とカネの問題、政治と宗教の問題などがピックアップされがちであるが、こうした国の基盤となる研究活動もこの国の基盤となるものなので、話題性が先の2件しか無かったとしても、しっかりと声を上げて問題意識を共有できる方を1人でも増やしていきたい。
(梅垣知隼)