新社会兵庫ナウ

おんなの目(2023年9月27日号)
徹底した平和主義を

2023/09/27
 8月にケーブルテレビで「戦争を語り継ぐ」という番組を放送する企画があり、戦争の体験談を募集していると知った。30年ほど前に80歳で亡くなった祖父から聞いた話を是非ともしたいと思い応募した。
 戦前、大陸で働いていた祖父は、日中15年戦争が始まる頃召集され、20歳代のほとんどを戦地で過ごした。祖父の若い頃の記憶は年老いても鮮明で、いろいろ戦時中の話を聞かせてくれた。ケーブルテレビの取材を受けて、幾つか祖父から聞いた話をした。取材した話は、事前に教育長や教育委員が放送できるかを見て編集するという。そこで、カットされた話をここでご披露したい。
 祖父の話によると、召集されて最初に人を殺す訓練をするそうだ。中国人捕虜を木の杭に縛り付け銃剣で刺し殺す。新兵の中には刺して相手が出血すると震えが止まらなくなったり、腰が抜けてへたり込み動けなくなる人もいたそうだ。刺された中国人は手当されることもなく何度も刺され苦しみながら死んでいく。その様子が可哀そうで仕方がなかった祖父は、自分の番が来た時、中国人が苦しまずすぐに死ねるよう一突きで殺すようにがんばったと話していた。
 片方は殺したくないのに、もう片方は殺されたくないのに、戦争をする国家はこんな恐ろしい行為を個人に強要する。殺すことを拒否すれば、自分が殺されたり、拷問のような処罰を受けたり、そして故郷の家族が非国民の家族として差別を受けるから従わざるを得なかった、と祖父は語った。
戦争が終わってからのことは祖父から特に聞いていないが、不戦を誓う日本国憲法ができてきっと安堵したことだろう。それから78年間、日本は間接的に関わることはあっても、日本国憲法を盾にして直接的には戦争をしなかった。ところが、近年になって解釈改憲が行なわれ軍事力が増強されている。特にロシアによるウクライナ侵略が始まると、軍事力の強化が必要と言う人が増えた。
 ウクライナ戦争が始まった時、私はウクライナに同情することができなかった。クリミア併合以降、ウクライナは兵力を増強し、軍事力を高め、NATOへの加入も求めた。それはウクライナもロシア同様、国際紛争を解決する手段として武力の行使をと考えていたと思われても仕方ない。ロシアに侵略の動機を与えたと私は思う。ウクライナの大統領が武器をくれとテレビで訴える姿を見る度に、ウクライナもロシアと同じ穴のムジナに思えた。
 戦争とは破壊と殺戮のことであって、どんなルールを持ち込んでも正義の戦争、正しい戦争にならない。ブチャの虐殺を忘れてはならないが、戦争する理由にならない。徹底した平和主義を私は求める。
 ウクライナ東部に住む老婦人が語った言葉が心に残る。わずかな年金で自給自足に近い暮らしをする彼女は、今まで通りの生活ができるなら、自分の国がウクライナであろうが、ロシアであろうが、はたまた、どこか別の国であろうが、かまわないと言った。国家や国境線よりも個人のささやかな生活が大切なのだ。
 日本国憲法の前文と9条の精神を持って、武器を捨て、外交に専心し、友好を結び、交渉し、説得し、不断の努力を尽くし、平和的に物事を進めなければならない。そうしなければ、いつまでも戦争の惨禍はなくならず、不幸の連鎖も断ち切ることはできないだろう。
(大野)