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東京五輪中止の決断を
またも延長の緊急事態宣言

2021/06/08
①予約時の大混乱を経つつようやく高齢者へのワクチン接種も進み出した=5月28日、神戸市中央区
 
②2度目の上書きにドアの奥からため息が漏れてきそう=5月30日、神戸市灘区


 またもや緊急事態宣言の延長だ。菅首相は、5月末までを期限としていた兵庫県など9都道府県への緊急事態宣言を6月20日まで延長した。兵庫県などの4都府県にとっては5月12日の延長につぐ再延長で、業種によってはほぼ2カ月にわたって休業要請を受けることになり、まさに死活問題だ。政権の見通しの甘さ、発信の説得力の乏しさが今回も露呈した格好だが、すでに置き換わったとされるイギリス型変異株よりもさらに感染力の強いインド型変異株が広がろうとしている感染状況を考えれば宣言の延長もやむを得まい。
 しかし延長は、あくまでも国民の命・健康・暮らしを守るために感染リスクを極力抑えるためのものであり、休業や時短営業の要請などを伴う以上、苦境にある人々への補償や支援はそれ相応に強め、急がねばならないはずだ。また、コロナ禍を理由とする解雇・雇い止めが4月時点ですでに10万人を超えている事態への対処も無視できないものだ。
 だが、延長を6月20日までとした菅政権の判断の前提は、1カ月後の東京五輪・パラリンピックの開催であるとしか見えてこない。五輪開催の理念や意義はもはや失われている。国民の8割は開催に反対し、「復興五輪」「コロナに打ち勝った証としての五輪」「安全・安心の五輪」と、お題目もつぎつぎと変えざるをえないほどに破綻している状況にもかかわらず、五輪の開催強行へと突き進む政権の暴走は歴史的な愚挙となりかねない。
 「高齢者のワクチン接種を7月末までに完了」「1日100万回接種」と大号令をかけ、ワクチン接種に政権の命運をかけるかのような姿から透けて見えるもの。それは、コロナ禍への対応の無策によって急降下した政権の支持率を浮上させるための手段としてであり、ワクチン接種の進捗で五輪を開催してみせることこそが政権の維持には不可欠だとする政治的魂胆と執念ではないのか。
 大きな感染リスクを背負い、医療体制にも重大な影響を及ぼしかねない五輪開催は、まっとうな開催は無理だと考え、一刻も早く中止の決断をすることである。政権が今なすべきことは、五輪の開催ではなく、国民の命と暮らしを守るために財源も医療資源もそのことに十分に充てることだ。