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息子の「死」を無駄にしたくない

2022/03/09
 息子のA・Kさんを自殺(2010年10月31日)に追いやった原因は、旧手柄食品の長時間労働によって精神障害を発症したことにある、その息子の「死」を無駄にしたくないと、彼の両親は、安全配慮義務違反の労災事故だと裁判に訴えた。最高裁まで争ったが、2020年10月、最高裁で棄却され時効になった。
 それでも両親は2021年4月20日、時効延長手続き(6ヵ月)をとって「損害賠償事件」で提訴した。争点は、安全配慮義務違反がある長時間労働を会社は放置していた、ということだ。
 漬物包装の主任だったA・Kさんは、従業員(パート含む)総括責任者で、漬物を容器に入れて出荷部門に渡す仕事。遅れると罰金になる。就業時間内(午前8時〜午後5時)で作業をこなすことは困難で、容器および運搬用台車が他の部門との競合で不足しているなか、①在庫確認とその日の製造数の指示、②カップの蓋と袋、漬物を浸す調味液の準備、③機械の点検、④シフト制のパート従業員の割当・調整・出勤管理、賃金計算と管理という仕事を抱え、昼休みも機械を働かすので、その見張りのため休憩は取れない。ゴールデンウイークと年末には需要が高まり業務量は増加した。事前準備をしないと設定した生産を達成することはできず、そのためには早朝出勤(6時)と定時後まで(21時)の居残り(残業)が求められ、それが当たり前となった労働実態だった。
 2003年4月頃、手足のしびれの自覚症状が出て心療内科を受診したところ、「身体化障害」(※)と診断された。
 裁判での旧手柄食品の主張は、①時間外での作業準備の指示はしていない、②時間外労働の証明も無い、③精神障害の報告・連絡も受けていないなど、「証拠を示すものが無いので責任を負う必要はない」と、個人の問題にしてきた。
 しかし、裁判所および旧手柄食品に「死」の選択しかなかったことを重く受けとめさせる裁判である。
  岩本義久(はりまユニオン書記長)
(※)身体には異常が指摘できないのに、多様な症状が長期にわたってある病気のこと。皮膚の痛みやしびれ、吐き気、胃痛などの症状が現れ、うつや不安障害を伴うこともある。