新社会兵庫ナウ

私の主張(2021年12月15日号)

2021/12/15
大衆運動の強化と参院選で新たな改憲の動きを止めよう
 
 先般の総選挙結果は、新たな政治地図と政治局面をつくり出した。注目すべきひとつのカギは、国民民主党も加えた改憲勢力が衆議院で、改憲発議を可能とする3分2を大きく超える4分の3に近づいたことだ。さらに、「自民より右の野党」を自任する維新の会が大躍進したことでその発言力を増したことだ。こうした状況に勢いを得て、自民党や維新の会が改憲に向けた前のめりな発言を行っている。また、これに引き寄せられるように、公明党や国民民主党も改憲論議の加速を強く言い出した。改憲への新たな局面が始まっているのだ。来年夏の参議院選挙で改憲勢力の3分の2以上の議席確保を許すのか、否かの攻防が再び焦点化する。改憲をめぐって私たちは今また正念場を迎えたと言えよう。
 本紙の「改憲の動きをウォッチング」欄でもここ最近の3号でこうした動きを詳しく紹介してきたところだが、あらためて各党の特徴的な動向を整理してみたい。
 まず、岸田首相は総選挙投票日翌日の11月1日、改憲問題が選挙の争点にはまったくなっていなかったにもかかわらず「党是である憲法改正に精力的に取り組む」と発言。総裁選で支持を受けた安倍元首相への忖度発言かとも思われたが、その後の言動を見ると、「ハト派」の宏池会(岸田派)の伝統をかなぐり捨てたかのように、改憲への本気度を増幅させている。茂木自民党幹事長が「改憲論議を加速し、緊急時に政府の権限を強化する『緊急事態条項』の創設を優先的に目指す方針を示した」(11月13日、読売新聞)のを受けてか、19日の内閣記者会インタビューでは、自民党の改憲4項目の同時改正にはこだわらず、一部を先行させる形もあり得ると述べている。
 同じ19日、自民党はこれまでの「憲法改正推進本部」を「憲法改正実現本部」に名称変更し、本部長と事務総長には安倍元首相に近い議員をそれぞれ就任させた。
 公明党の北側中央幹事会長も総選挙後の11月2日の記者会見で「憲法審の定例日はよほどの事情がない限りは開催し、憲法論議を進める」と述べた。
松井維新の会代表が11月2日、「来年の参院選までに改憲案を固め、参院選と同時に国民投票を実施すべき」とぶち上げたのには驚いたが、馬場幹事長(当時、現共同代表)は、立憲民主、共産両党が憲法審査会の開催を妨害してきたと批判し、憲法審査会を毎週開催するよう提案している(11月9日)。
さらに、立憲野党の共闘とは一線を画し、総選挙後は維新との連携を強めている国民民主党の玉木代表も、改憲議論の加速に同調している。
こうして当面は衆参の憲法審査会の審議をめぐる攻防が焦点化されてこよう。
 もうひとつのカギは、こうした局面の中での野党共闘の今後をめぐる議論である。総選挙後、立憲民主党が後退したことで、野党共闘があったからこそあげ得た成果を黙殺し、野党共闘失敗論の大合唱がマスメディアも含めて起きた。顕著なのは、批判の矛先が立憲民主党が共産党と共闘したことに向けられていることであり、連合会長などはその先頭に立っている。したがって、ここで注目されるのは、新執行部体制を発足させた立憲民主党の動向だ。枝野代表の辞任後、泉新代表の下で新執行部が発足したが、立憲民主党が今後、この野党共闘に、そしてまた、憲法論議や憲法審査会の対応にどういう立ち位置を取るのか注目されるところだ。
 重要なことは、野党共闘否定論は、前述の改憲論議の加速化の問題とは無関係ではないどころか、強くリンクしていることだ。来年の参院選での改憲をめぐる攻防の意味を考えれば、その狙うところは明らかだ。また、「批判ばかりの政党」との立憲民主党への非難も、そうした狙いの一端を担うものだろう。
 私たちは、この野党共闘を守るだけでなく、市民と野党の共闘をさらに大きく発展させなければならない。政党間の論議だけに任せるのではなく、どう日常の大衆運動と結びつけてその輪を広げ、求心力を強めていくかが市民運動の課題としても問われてくる。
 そしてさらに重大なことは、新たな改憲論議がかつてなく膨張した日本の軍備増強路線、「敵基地攻撃能力」保有をも視野に入れた攻撃的「防衛」戦略の中で起きていることである。
 上野恵司(『新社会兵庫』編集長)