新社会兵庫ナウ

私の主張(2021年11月30日号)

2021/11/30
 コロナ禍で生活困窮に陥る人が増加し、最後のセーフティネットと呼ばれる生活保護制度への注目が高まっている。2021年1月27日の衆院予算委員会で当時の総理大臣が野党議員から再度の特別定額給付金について問われたことに対し、「最終的には生活保護がある」と答弁したことを受け、生活保護の「制度」や「運用面」における問題点(以下、「問題点等」とする)に関する指摘が多くみられる。このことについて、福祉事務所(同、「WO」)で働くケースワーカー(同、「CW」)の立場からコメントしたい。
 生活保護の問題点等については、「生活保護を利用する権利がある人のうち、現に生活保護を受給している人の割合が2割程度と低く、最後のセーフティネットとなり得ていない」といった指摘に要約され、そうなっている原因として「扶養照会」の実施と「水際作戦」と呼ばれる窓口対応の問題が中心に論じられることが多い。
 前者については現行制度の運用上、「70歳以上の高齢者」や「10年以上交流の無い親族」に対して照会を行わなくても良いこととされている。問題点等に関する指摘のうちには、「申請者相談の際に、WO職員から扶養照会に関する説明を受け、親族に知られるのが嫌だから申請することを止めた」、つまり後述する水際作戦に通じる結果を招いているといった事実や、扶養照会を行った件数に比べ実際に金銭的援助につながる件数の割合が極端に少ないことを述べた上で、扶養照会については廃止すべきであるといった主張まで見られる。
 こうした生活保護法第4条の2に定める「保護の補足性」を否定することにつながる考え方や、あるいは民法第877条の「扶養義務者」に関する規定が時代錯誤であるといった指摘は、その内容が正しいものであったとしても、実際に法改正が行われない限りは、法を順守するしかないのが現場CWの立場である。また、「70歳以上の高齢者」や「10年以上交流の無い親族」に対して照会を行わなくても良いとされる運用が守られていない事例があるのであれば、当該WOに対する都道府県主管課からの指導を強化することにより適正化を図るべきである。
 後者については、WOによって申請相談者への対応の差があることは否定できないが、申請者の意思が尊重されなければならないことは言うまでもなく、少なくともWOが生活保護制度の説明をすることによって相談者の申請の意思が捻じ曲げられるようなことがあってはならない。この点についても、水際作戦を実際に行っているWOに対する都道府県からの指導が重要となってくる。
 生活保護受給者に対するWOの行き過ぎた指導(就労指導など)に対する指摘も見られるが、これまで述べてきたように、適正でない運用を行っている一部のWOへの上位官庁からの指導が十分に行われることにより、国民の権利である生活保護が、真に必要としている住民に必要な期間・必要とされる程度、支給されるよう改善されなければならないと考える。
 生活保護の問題点等を指摘する論調の中に、一部の不適正事例を以てすべてのWOが同じような運用を行っているかのような論調が認められることは、非常に残念でしかない。問題点を指摘する文章にはいわゆる支援団体と同じような主張が多いように感じるが、現場のCWから聴取した意見をほとんど見かけないというのは偏りがあるように思われる。適正でない運用実態が認められる背景には、慢性的にマンパワーが不足している実態や、そのまた背景にある行革・人減らしの問題、あるいは前述した法改正の未整備の問題等々が放置されており、生活保護行政の現場でCWは日々苦闘しているのである。
 冒頭でふれた総理大臣答弁に関連して、コロナ禍で一時的に職を失ったり、所得が激減したりした人たちへの救済策としては、現行の生活保護制度とは異なる新たな施策を講じる必要があるのではないか、と考える。
  細川 雅弘(自治体労働者)