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私の主張(2021年4月27日号)
2021/04/27
デジタル改革関連法案 デジタル庁による国民監視社会構築を許すな
菅首相の肝いり政策であるデジタル庁創設を柱とする「デジタル改革関連法案」の5法案が4月6日、衆院本会議で自民、公明、日本維新の会、国民民主の各党の、さらに一部の法案には立憲民主党も加わった賛成多数で可決され、参院に送られた。
同法案は、個人情報の保護などにかかわってデジタルによる「国民監視法案」ともいうべき危険な内容が含まれており、本来ならば重要な対決法案として広くその問題点が知らされなければならないところだ。だが、コロナ禍のなかで行政のデジタル対応の遅れが指摘され、野党の一部も賛成していることもあってか、マスコミではその問題点はあまり大きく扱われていない感じがする。だからこそ、あらためて法案の問題点を検討したい。
まずは、この法案審議の乱暴な手法だ。計64本ある「デジタル改革関連法案」の1本だけを除き、関連する63本の新法案や改正案を5つに束ねて衆院内閣委で一括して審議してきたが、これだけ多岐にわたる内容の法案を大きく束ね、ひと月足らずの短い審議時間(実質、全体で30時間にも満たない)で採決するというやり方は、安保法制や「働き方改革」のときなどに用いられた強引で乱暴すぎる手法である。
63本の法案は、「デジタル社会形成基本法案」や「デジタル庁設置法案」をはじめ、個人情報保護法の見直し、マイナンバーへの預貯金口座のひも付け促進、押印手続きの廃止などのための改正法案などからなる。
この法案の最大の問題点は、何よりも行政が持っているデジタル個人情報を政府が独占できることである。法案が成立すれば、首相がトップを務めるデジタル庁が9月1日から発足する。デジタル庁は政府のデジタル施策の総合調整を担い、国のデジタル政策の予算分配などの強大な権限が集中する。省庁の職務分担を超えて官民の情報を集中し、デジタル行政の「司令塔」としての役割を果たす。まさに行政に横串を刺しての権限の集中だ。
内閣直属のデジタル庁は、発足時は500人体制で100人程度を民間から登用する。彼らは週3日の非常勤国家公務員の扱いとなり、兼業やテレワークが認められる。また、首相の下に置かれる事務方トップの「デジタル監」をはじめ、局長や審議官などの幹部にも民間出身者を充て、国の機関だけでなく、地方や公共サービスを担う民間企業のシステムも企画・推進する。基幹情報の漏えい、行政と企業の癒着による行政の歪みという危惧は生まれないだろうか。
このデジタル庁の下で、これまでバラバラになっている各省庁や自治体の情報システムも共通化・標準化される。現在、個人情報保護法は民間、行政機関、独立行政法人の3つに分かれているが、それらも統合され、条例で個別に定められている各自治体の個人情報保護制度も共通化・標準化される。こうした「一元化」により、個人情報がデジタル庁に一元管理されてしまうことが可能になる。強く恐れるところだ。マイナンバーカードの普及と合わせ、マイナンバーと連携すれば、これまでは自治体が所有する個人の病歴や所得・資産といった個人情報が、本人の知らない間に政府に集められ、政府がすべての情報を握ることが可能になる。個人情報保護法制を一元化するための全面改定である。こうなれば、まさに国によって個人が監視される「国民監視社会」の到来である。
政府は、「所管の行政機関以外はデータにアクセスできず、デジタル庁の職員が見ることは不可能」と反論しているが、個人情報保護法の改正案では「業務の遂行に必要で相当な理由のあるとき」は本人の同意なしで個人情報の目的外使用や提供をすることを行政機関に認めている。この「相当な理由」という要件が厳格ではない。
さらに、そうした行為を監督する個人情報保護委員会は、行政機関に「指導」「助言」「勧告」はできても、民間に対しては可能な「命令」や「立ち入り検査」は行政機関にはできないとしている。
また、法案には個人情報の扱いの自己決定の権利も明記されていない。
「デジタル関連法案」の大きな狙いは、明らかにデジタルによる監視社会の構築と、個人情報の官民での利活用の容易化だと言わねばならない。
さらに、地方自治体の先行的な取り組みの後退を生じさせかねないという問題点もある。個人情報保護法の改正によって、たとえば性的少数者(LGBT)の個人情報保護など独自の規定を設けてきた自治体の条例も「いったんリセット」することが求められ、白紙に戻される。条例が蹂躙される事態ではないか。
こうした法案に法律家たちも強い懸念を表明しているが、参院での審議を通し、もっと問題点を広く暴いていく必要がある。
上野恵司(平和運動研究会)
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菅首相の肝いり政策であるデジタル庁創設を柱とする「デジタル改革関連法案」の5法案が4月6日、衆院本会議で自民、公明、日本維新の会、国民民主の各党の、さらに一部の法案には立憲民主党も加わった賛成多数で可決され、参院に送られた。
同法案は、個人情報の保護などにかかわってデジタルによる「国民監視法案」ともいうべき危険な内容が含まれており、本来ならば重要な対決法案として広くその問題点が知らされなければならないところだ。だが、コロナ禍のなかで行政のデジタル対応の遅れが指摘され、野党の一部も賛成していることもあってか、マスコミではその問題点はあまり大きく扱われていない感じがする。だからこそ、あらためて法案の問題点を検討したい。
まずは、この法案審議の乱暴な手法だ。計64本ある「デジタル改革関連法案」の1本だけを除き、関連する63本の新法案や改正案を5つに束ねて衆院内閣委で一括して審議してきたが、これだけ多岐にわたる内容の法案を大きく束ね、ひと月足らずの短い審議時間(実質、全体で30時間にも満たない)で採決するというやり方は、安保法制や「働き方改革」のときなどに用いられた強引で乱暴すぎる手法である。
63本の法案は、「デジタル社会形成基本法案」や「デジタル庁設置法案」をはじめ、個人情報保護法の見直し、マイナンバーへの預貯金口座のひも付け促進、押印手続きの廃止などのための改正法案などからなる。
この法案の最大の問題点は、何よりも行政が持っているデジタル個人情報を政府が独占できることである。法案が成立すれば、首相がトップを務めるデジタル庁が9月1日から発足する。デジタル庁は政府のデジタル施策の総合調整を担い、国のデジタル政策の予算分配などの強大な権限が集中する。省庁の職務分担を超えて官民の情報を集中し、デジタル行政の「司令塔」としての役割を果たす。まさに行政に横串を刺しての権限の集中だ。
内閣直属のデジタル庁は、発足時は500人体制で100人程度を民間から登用する。彼らは週3日の非常勤国家公務員の扱いとなり、兼業やテレワークが認められる。また、首相の下に置かれる事務方トップの「デジタル監」をはじめ、局長や審議官などの幹部にも民間出身者を充て、国の機関だけでなく、地方や公共サービスを担う民間企業のシステムも企画・推進する。基幹情報の漏えい、行政と企業の癒着による行政の歪みという危惧は生まれないだろうか。
このデジタル庁の下で、これまでバラバラになっている各省庁や自治体の情報システムも共通化・標準化される。現在、個人情報保護法は民間、行政機関、独立行政法人の3つに分かれているが、それらも統合され、条例で個別に定められている各自治体の個人情報保護制度も共通化・標準化される。こうした「一元化」により、個人情報がデジタル庁に一元管理されてしまうことが可能になる。強く恐れるところだ。マイナンバーカードの普及と合わせ、マイナンバーと連携すれば、これまでは自治体が所有する個人の病歴や所得・資産といった個人情報が、本人の知らない間に政府に集められ、政府がすべての情報を握ることが可能になる。個人情報保護法制を一元化するための全面改定である。こうなれば、まさに国によって個人が監視される「国民監視社会」の到来である。
政府は、「所管の行政機関以外はデータにアクセスできず、デジタル庁の職員が見ることは不可能」と反論しているが、個人情報保護法の改正案では「業務の遂行に必要で相当な理由のあるとき」は本人の同意なしで個人情報の目的外使用や提供をすることを行政機関に認めている。この「相当な理由」という要件が厳格ではない。
さらに、そうした行為を監督する個人情報保護委員会は、行政機関に「指導」「助言」「勧告」はできても、民間に対しては可能な「命令」や「立ち入り検査」は行政機関にはできないとしている。
また、法案には個人情報の扱いの自己決定の権利も明記されていない。
「デジタル関連法案」の大きな狙いは、明らかにデジタルによる監視社会の構築と、個人情報の官民での利活用の容易化だと言わねばならない。
さらに、地方自治体の先行的な取り組みの後退を生じさせかねないという問題点もある。個人情報保護法の改正によって、たとえば性的少数者(LGBT)の個人情報保護など独自の規定を設けてきた自治体の条例も「いったんリセット」することが求められ、白紙に戻される。条例が蹂躙される事態ではないか。
こうした法案に法律家たちも強い懸念を表明しているが、参院での審議を通し、もっと問題点を広く暴いていく必要がある。
上野恵司(平和運動研究会)