改憲の動きをウオッチング

2020年10月27日号

2020/11/01
■6教授任命拒否 むきだしの権力行使 学術会議を目の敵にする訳は?
 菅政権は、発足早々からむきだしの権力行使の正体をあらわにしてきた。菅首相は日本学術会議が推薦した6教授の任命を拒否した。学会や研究者、幅広い団体から反対声明が続々出されている。
 気心の知れた内閣記者会「インタビュー」(正式な記者会見ではない)で、理由を何一つ明らかにできないまま「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から判断した」と発言。記者団から「わかりづらい」と指摘され、何度聞かれても、同じ言葉を繰り返した(10月5日)。10月9日のインタビューでは、6人を拒否する前の105人の候補者推薦リストは「見ていない」と述べており、「首相の任命は学術会議法の推薦に基づいて」行われたものではないことが明らかになった。同法違反は明白であり、学術会議の推薦権に対する重大な侵害である。
 学術会議は1949年の設立にあたって、科学者が侵略戦争に協力した反省から「(科学が)わが国の平和的復興と人類の福祉増進のために貢献せんことを誓う」と宣言。
 翌50年の総会で「戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わない」とする声明を決議。また、国内大学への米軍の研究資金供与が発覚した67年の総会でも改めて「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」とする声明を決議。多くの大学が「軍事研究の禁止」を確認。
  ところが政府は、国立大学の運営交付金を削減し兵糧攻めにしておきながら、足元を見るかのように、2015年から防衛省は兵器開発につながるテーマで、大学や研究機関から公募し、資金を提供する「安全保障技術研究推進制度」を新設、研究者の「餌付け」を狙う。当初は3億円、20年度は95億円。学術会議は10億円。
 学術会議は、軍事的安全保障研究では「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」として、17年に上記声明の継承を確認。「軍事的安全保障研究に関する声明」を出し政府と一線を画した。
 任命されなかったうちの一人、松宮孝明・立命館教授(刑事法学)は「政府は研究費を増やしているのに、学術会議、学者はなかなかこれに応じない。今回の人事介入の背景には、そうした政府のいらだちがあると思う」と語っている(毎日)。
 安倍前政権下で人事への介入を始めたのは、戦争法や共謀罪法など国論を2分する政策を推し進め、学界からの批判が噴き出した時期と重なる。秘密保護法や戦争法などに反対する活動を展開した後の16年の欠員補充や17年の定期改選に露骨な介入を行っている。1983年、会員の選出方法を公選制から推薦・任命制にする学術会議法改定案の審議で、政府は全員任命する「形式的任命」だと繰り返し答弁している。中曽根首相(当時)は「実態は各学会が推薦権を握っている。政府の行為は形式的行為と考えれば、学問の自由独立はあくまで保障される」と明言。こうした国会論議を経て固まった解釈だ。
 しかし、菅内閣は国会に諮らず国会答弁を180度覆す解釈変更を行った。解釈変更を否定する政府は、憲法15条1項を大上段に振りかざして、首相の任命権を過度に強調し「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」(18年の内部文書)と強弁した。
 河野行政改革担当相は学術会議を行政改革の対象にすると表明。自民党も学術会議の在り方を検討するプロジェクトチームを立ち上げた。
 あわよくば学術会議の解体を狙い、「戦争する国づくり」の邪魔者を排除するということか。戦前の思想・学問への弾圧の歴史を忘れず、任命拒否を撤回させよう。(中)