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私の主張(2020年10月13日号)
2020/10/17
“安倍なきアベ政治”
推進の菅政権は早期に打倒しよう
どんな権謀術数をめぐらせたのかわれわれには憶測しかできないが、権力の座をめぐって働いた政治力学にうまく乗って自民党総裁選の圧勝をつくり出しただけのことはある。新たに首相になった菅義偉は、“したたかな人物”である―。総裁選での演出やその後の言動を見るにつけ、そんな印象を強く持たざるをえない。前政権以上に、剛腕で強権的な政権運営を進める可能性は大だ。「暫定政権」などではなく、今後、実に危険な政権として対峙していく必要があろう。
総裁選にあたっては「新型コロナウイルスの拡大という国難にあり、政治の空白は許されない」としながら、いまだに実質的な国会は開かれず国会での首相の所信表明演説も行われていない。コロナ禍による失業と休廃業・解散が増える一方という情勢のなか、このことからだけでも、菅政権では国民の生活は重視されていないと言わずにおれない。
このほか、この間の菅首相の特徴的な言動からも政権の性格が浮かび上がる。
「安倍政権の取り組みを継承し、さらに前に進めていく」―。この言葉通り、基本は安倍政権とその政策の継承であり、“居抜き内閣”とも揶揄されるように“安倍なきアベ政治”の進路を選んだ。コロナ禍によってその破綻や矛盾があぶり出されているアベノミクスも継続するとし、改めて新自由主義を強く推進する構えだ。めざす社会像を「自助・共助・公助、そして絆」と強調するのも、明らかにまずは競争原理にもとづく「自助」=自己責任を強いるもので、新自由主義そのものにほかならない。
また、政権の権力基盤のひとつ、中央省庁の幹部人事を決める内閣人事局の運用も変えないと、官邸主導を貫くことを明言した。その端的な表現が、政策の決定をめぐっては「(官僚は)内閣の方針に従ってもらえない場合は異動してもらう」である。露骨に官僚人事の掌握を誇示してみせて、さらに官僚の政権への忖度を促しているようだ。
「役所の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打破し、規制を改革する」と繰り返し述べ、新政権の看板政策として行政のデジタル化、脱ハンコ、デジタル庁の新設へと踏み出した。だが、それらの行き着く先は権力のいっそうの集中ではないのか。
驚くべきは、早くも象徴的な強権発動が示されたことだ。日本学術会議の会員候補のうち6人を任命拒否するという人事介入を強行した。任命を拒否されたのは、これまで安保関連法、共謀罪、特定秘密保護法、辺野古基地建設問題などを批判してきた学者だ。拒否の理由も明らかにしないという前代未聞の暴挙は、前例にとらわれないことを見せつけ、さらに、政権批判をする者に対しては恐怖感を与え、委縮を迫ろうという魂胆だろう。
ただ、強面のムチの部分を見せる一方で、携帯電話料金の引き下げ、不妊治療の保険適用など、国民受けするアメ的な政策を掲げて人気を集めており、支持率は世論調査によっては70%を超えている。内閣のみならず自民党の支持率も急上昇していることに対し、野党側は、合流新党、(新)立憲民主党の結成という新たな動きがあっても支持率は低迷したままである。
さてそこで、私たちにとっての課題は、こうした性格を持つ“安倍なきアベ政治”の菅政権とどう対峙し、どう早期に倒すかである。ただ、言うまでもなく、今回の政権交代は、政権内部の事情と思惑によるもので、安倍一強体制を許してきた野党側の力が高まったからのものではない。民衆の動きの高まりがあったわけでもない。ここが課題の出発点だ。
当然のことながら、課題の基本は、とにかく野党の結束とその力量を高めることであり、菅・自公政権に並ぶ国民の選択肢へとどう高めていくかである。野党に、コロナ禍での人々の暮らしの安心と安定の実現へ希望を託せる政策と、それを担える力が見えてこなければ、発足後から巧妙につくられた菅政権の幻想を打ち砕くことはできない。市民と野党の共闘、野党統一候補の実現を進める政策協議、政策協定を急がねばならないが、いのち・暮らしを優先させ、菅政権との争点を明確にした政策、とりわけ消費税5%減税、不公平税制是正と所得再分配政策などがカギだろう。
もうひとつ問われるのは市民という主体の力の高まりである。対自治体を含めた諸要求の実現や民主主義の回復をめざす大衆運動を契機としてこそ生みだされて来よう。
上野恵司(『新社会兵庫』編集長)
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推進の菅政権は早期に打倒しよう
どんな権謀術数をめぐらせたのかわれわれには憶測しかできないが、権力の座をめぐって働いた政治力学にうまく乗って自民党総裁選の圧勝をつくり出しただけのことはある。新たに首相になった菅義偉は、“したたかな人物”である―。総裁選での演出やその後の言動を見るにつけ、そんな印象を強く持たざるをえない。前政権以上に、剛腕で強権的な政権運営を進める可能性は大だ。「暫定政権」などではなく、今後、実に危険な政権として対峙していく必要があろう。
総裁選にあたっては「新型コロナウイルスの拡大という国難にあり、政治の空白は許されない」としながら、いまだに実質的な国会は開かれず国会での首相の所信表明演説も行われていない。コロナ禍による失業と休廃業・解散が増える一方という情勢のなか、このことからだけでも、菅政権では国民の生活は重視されていないと言わずにおれない。
このほか、この間の菅首相の特徴的な言動からも政権の性格が浮かび上がる。
「安倍政権の取り組みを継承し、さらに前に進めていく」―。この言葉通り、基本は安倍政権とその政策の継承であり、“居抜き内閣”とも揶揄されるように“安倍なきアベ政治”の進路を選んだ。コロナ禍によってその破綻や矛盾があぶり出されているアベノミクスも継続するとし、改めて新自由主義を強く推進する構えだ。めざす社会像を「自助・共助・公助、そして絆」と強調するのも、明らかにまずは競争原理にもとづく「自助」=自己責任を強いるもので、新自由主義そのものにほかならない。
また、政権の権力基盤のひとつ、中央省庁の幹部人事を決める内閣人事局の運用も変えないと、官邸主導を貫くことを明言した。その端的な表現が、政策の決定をめぐっては「(官僚は)内閣の方針に従ってもらえない場合は異動してもらう」である。露骨に官僚人事の掌握を誇示してみせて、さらに官僚の政権への忖度を促しているようだ。
「役所の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打破し、規制を改革する」と繰り返し述べ、新政権の看板政策として行政のデジタル化、脱ハンコ、デジタル庁の新設へと踏み出した。だが、それらの行き着く先は権力のいっそうの集中ではないのか。
驚くべきは、早くも象徴的な強権発動が示されたことだ。日本学術会議の会員候補のうち6人を任命拒否するという人事介入を強行した。任命を拒否されたのは、これまで安保関連法、共謀罪、特定秘密保護法、辺野古基地建設問題などを批判してきた学者だ。拒否の理由も明らかにしないという前代未聞の暴挙は、前例にとらわれないことを見せつけ、さらに、政権批判をする者に対しては恐怖感を与え、委縮を迫ろうという魂胆だろう。
ただ、強面のムチの部分を見せる一方で、携帯電話料金の引き下げ、不妊治療の保険適用など、国民受けするアメ的な政策を掲げて人気を集めており、支持率は世論調査によっては70%を超えている。内閣のみならず自民党の支持率も急上昇していることに対し、野党側は、合流新党、(新)立憲民主党の結成という新たな動きがあっても支持率は低迷したままである。
さてそこで、私たちにとっての課題は、こうした性格を持つ“安倍なきアベ政治”の菅政権とどう対峙し、どう早期に倒すかである。ただ、言うまでもなく、今回の政権交代は、政権内部の事情と思惑によるもので、安倍一強体制を許してきた野党側の力が高まったからのものではない。民衆の動きの高まりがあったわけでもない。ここが課題の出発点だ。
当然のことながら、課題の基本は、とにかく野党の結束とその力量を高めることであり、菅・自公政権に並ぶ国民の選択肢へとどう高めていくかである。野党に、コロナ禍での人々の暮らしの安心と安定の実現へ希望を託せる政策と、それを担える力が見えてこなければ、発足後から巧妙につくられた菅政権の幻想を打ち砕くことはできない。市民と野党の共闘、野党統一候補の実現を進める政策協議、政策協定を急がねばならないが、いのち・暮らしを優先させ、菅政権との争点を明確にした政策、とりわけ消費税5%減税、不公平税制是正と所得再分配政策などがカギだろう。
もうひとつ問われるのは市民という主体の力の高まりである。対自治体を含めた諸要求の実現や民主主義の回復をめざす大衆運動を契機としてこそ生みだされて来よう。