新社会兵庫ナウ

寄稿 ニューヨークで社会主義者の市長誕生
  佐野 修吉

2025/11/26
勝利したゾーラン・マムダニ氏(右)と支援のバーニー・サンダース氏(写真上)、ニューヨーク市長選における民主党の行動。民主社会主義者をアピールする(写真下)

マムダニ陣営の勝因と課題
 11月4日、ゾーラン・マムダニが50%超の得票率でニューヨーク市長選挙に勝利した。すでに日本のマスメディアでも驚きとともにかなり大きく報道されているが、ここではマムダニ陣営の勝因と課題について紹介する。
 34歳、インド系のイスラム教徒、親パレスチナ、民主社会主義者を堂々と名乗っての当選である。昨年10月に出馬表明をしたが、ニューヨーク州議会議員であったものの最初の支持率は1%だった。アメリカでは、基本的に民主党と共和党ごとに予備選挙を行って、その勝者が本選挙で争うという構図になっている。まず6月におこなわれた予備選挙で勝つことが必須要件であった。マムダニは、その民主党予備選挙で前州知事のアンドルー・クオモなどを破った。そして、11月の本選挙でも、トランプ大統領が支援したクオモに再度勝利したのだ。
労働者が暮らせるニューヨークに
 マムダニが掲げた公約は、①市営バスの無料化、②市内の40.50%を占める「家賃安定化住宅」の家賃凍結、③食料品価格引き下げのため市営食料品店開設、④ユニバーサル保育の支援、⑤20万戸の手頃な価格の住宅新規建設、⑥公共の安全と改革、⑦2030年までに最低賃金を30ドルに引き上げ、である。その財源は企業と年収100万ドル(約1億5千万円)以上の個人に対する増税である。
 超物価高、特に家賃の高騰は激しく収入の半分を占めている。そのニューヨーク市民の生活を「暮らしやすい」ものにし、財源は企業と富裕層に負担させるということだ。庶民の生活をこれ以上苦しめるなを意味する「ニューヨークは売り物ではない」というキャッチコピーは、有権者にヒットした。
徹底した戸別訪問 十万人がボランティアで
 日本と違って、アメリカでは選挙期間中も戸別訪問ができる。問題はそれをやりきる運動員の確保だ。共和党も従来の民主党もそれができないから、莫大な費用をかけてテレビやSNSで選挙戦を行ってきた。
 しかし、オバマの大統領選挙の頃から若者による個別訪問の効果が注目されるようになり、それをDSA(アメリカ民主社会主義者)はシステムとして取り入れ、緻密なものに仕上げてきた。
 ニューヨーク州のDSAは全国最大で7千人の会員がいる。そのニューヨークDSAは2018年のオカシオ・コルテスの選挙で、その効果を確信した。そのシステムの精度を選挙のたびにあげ、今回の予備選で4.5万人、本選挙では10万人の戸別訪問ボランティアが参加した。
洗練されたSNS情報発信
 マムダニは、候補者としての魅力にあふれる人材だ。あふれる笑顔、そして人々を引き込む演説だ。それを斬新な発想で伝えるSNSの情報発信で多くの人々の共感を得た。背広姿で冬の海に飛び込んで、凍えながら「皆さんの家賃も凍結します」という映像が注目され、眠らない街ニューヨークの「真夜中の労働者との交流行進」も圧巻だった。
背景に寡頭政治への怒り
 昨年の大統領選挙で民主党のカマラ・ハリスが敗北したことを受け、左派の重鎮であるバーニー・サンダースは「民主党は労働者階級に見棄てられた。アメリカの政治は少数の富裕層に政治の実権を握られている『寡頭政治』になっている」として、全国的に寡頭政治反対キャンペーンを開始し、各地で歴史的な規模の集会を開催してきた。
 また、10月17日の「NO KINGS(王様はいらない) DAY」集会には全国2700カ所以上で700万人以上が参加するほど、アメリカ全土でもトランプ大統領と寡頭政治への怒りは充満している。
 勝因は、この怒りを背景にした具体的な解決策の提示、徹底した戸別訪問と洗練されたSNS動画、広範な支持団体の結集、そして候補者の魅力であった。
マムダニ市政の課題
 マムダニ市政は、来年1月1日からスタートする。当然、トランプ大統領だけでなく、富裕層と手を結んでいる民主党主流派の抵抗にあうだろう。「資本ストライキ」と表現される富裕層の流出もある程度見込まざるをえない。現在のニューヨーク市議会構成は民主党46人、共和党5人と、圧倒的に民主党議員が多い。したがって、民主党議員の主流派をどう封じ込め、進歩派を拡大できるかがまず第1の課題になる。
 マムダニ陣営は、選挙戦の中盤からそれを意識し、「選挙の勝利は通過点に過ぎない。本当に政策を実現するためには、選挙後も体制を緩めず、草の根運動のうねりが不可欠だ」と呼びかけてきた。戸別訪問による住民の組織化を基盤に、社会運動や労働組合も結集して、議員にプレッシャーをかけ続けなければならない。
私たちの学ぶこと
 最後に、私たちが学び取るべきことについて一言付しておきたい。確かにこれは遠く離れて状況も大きく異なるアメリカ、ニューヨークの出来事である。
 だが、アメリカ社会の貧富格差拡大と荒廃は想像を絶するレベルである。その惨状を克服しようと社会主義に目覚めた人々が数十年にわたって諦めずに、あらゆるチャンスを生かして、ここまで到達し、さらに前進しようとしているのだ。私たちが学ぶべきものがアメリカの社会運動、とりわけDSAにはあるのは間違いない。