新社会兵庫ナウ

私の主張
民意から遊離した「高市自民党」
右翼的な〝安倍政治〞回帰許すな

2025/10/22
 10月4日の自民党総裁選で新たに就任した高市早苗新総裁のもとでいち早く党主要役員人事を終え、新たな連立政権の枠組みの拡大を模索中の自民党に、わずか6日後の10日、とてつもなく大きな衝撃が襲った。公明党を甘く見過ぎていたのだろう、いかにも公明党を軽視したような自民党のふるまいに「もうこれ以上がまんできない」とばかり、26年間にわたる自民党との協力関係を解消しての連立離脱を公明党が党首会談の席で高市総裁に通告した。新総裁誕生から1週間も経たない時期に起きた歴史的な出来事となった。
 7月の参院選での自公政権の大敗北が、今後の不安定で混迷する政治を予想させるという見方が広がったが、自公連立政権の終焉はその始まりの一つであろう。
 自民党の裏金問題に象徴される「政治とカネ」問題は、有権者の間に決定的な自民党不信を根づかせ、昨年の総選挙、今年の東京都議選、参院選と自民党を連続して敗北させ、大きな打撃を与えてきた。だが、それでもなお、この問題に真摯に向き合おうとせず、「『政治とカネ』問題はすでに解決済み」との姿勢を取り続けている自民党は、国民からの信頼回復どころか、ますます民意から遊離した政権与党でしかない。
 参院選での自公与党の大敗北は、石破政権の存続を許さなかった。それを受け、「解党的出直し」が語られた自民党総裁選は、その看板とは裏腹に何の新鮮味を見せることも、感じさせることもなかった。国民が見たのは、旧態依然とした「派閥政治」であった。
 小泉進次郎氏有利という大方の予想を覆して、高市早苗氏が逆転勝利で自民党新総裁に就いたが、その最後の切り札は、43人の派閥メンバーを率いる麻生太郎氏の「高市支持」の指示のひと声だったとされる。結局、派閥の力が権力闘争を制するという旧来のままの結末となった。そして、党新執行部人事は、何のはばかりもない、まさに論功行賞そのものの人事であった。麻生太郎氏を副総裁に就け、麻生派の議員を中軸で厚遇するとともに、高市支持に回った旧安倍派、旧茂木派からも積極的に登用し、裏金問題で最も闇の深い萩生田光一氏を幹事長代行に就任させるという荒業までやってのけた。
 これでは信頼回復どころか、国民への挑戦ではないか。さらに、自民党に「政治とカネ」問題での規制を求めた公明党にとっても、この人事は決定的な意味を持ち、逆にケンカを売られたようなものだ。もはや自民党との関係を見限るしかなく決別に至ったのだろう。こうして、当初は今月15日といわれていた首相指名選挙は、大きく後ろにずれ込むこととなったが、しかし、連立の枠組みは今もって不透明で見通せない(10月12日記)。
 一方、野党側も首相指名選挙における決選投票での一本化の機運さえ今は高まっておらず、断定はできないが、最終的には高市早苗新首相誕生の可能性は高いといわざるをえない。しかし、その場合は、ますます政権基盤が弱まった自民党単独政権であろう。
 だが、問題はそこからである。その可能性の上でのことだが、その自民党政権の政治の方向はいかなるものになるのか。
 新総裁になった高市氏が帯びている使命は、先の選挙で参政党や保守党などより右翼的な政党に流れたとされる「岩盤保守層」の支持を取り戻すことである。高市氏自身の強い保守的な政治信条からしても、目指すのは、そのことを意識した右翼的な政治であり、かつての〝安倍保守政治.への回帰だろう。とりわけ、改憲への強い志向を持ちながら、軍拡・戦争準備路線をいっそう強く進めていこうとするだろう。もちろん野党の対応が大きく作用するが、私たちはその危険な政治の道を止めなくてはならない。
 物価高対策など国民生活にとっての喫緊の課題は当然優先されるだろうが、警戒すべきは、残念ながら、野党の多くと共同歩調が取れる「スパイ防止法」の問題である。戦前の治安維持法にも通じかねない、国家による情報の統制と監視の強化が目論まれる国民統合の一手段だ。むしろ、野党側からの後押しがあって、「スパイ防止法案」が秋の臨時国会に提出されてくる公算が高い。
 高市氏自身も総裁選の公約に掲げ、参政党と国民民主党を先頭に、日本維新の会、保守党も外国人政策とあいまって同法の制定を掲げていて、国会では多数派を占める。
 これを防ぐのは、大衆運動の相当な盛り上がりとそれによって広がる世論の力だ。政治の保守化・右傾化の加速を止めるためにも今後の重要な政治課題の一つだと考えなくてならない。
上野恵司(『新社会兵庫』編集長)