新社会兵庫ナウ

私の主張(2025年3月12日号)
「壁を破る」より所得再配分となるような税制にすべきだ

2025/03/12
 昨年の衆議院選挙で「103万円の壁を破る」「手取りを増やす」という政策で国民民主党は若者を中心とした支持を得て議席を4倍増させた。少数与党となった自公政権は予算案の「賛成」と引き換えに同党のこの政策を取り入れるために協議が行われた。最初、与党側が給与所得控除10万円プラス基礎控除10万円の計20万円の引き上げを示したが物別れに終わり、再度協議することとなった。妥協案が出されているがこの記事が掲載されるまでまだまだ紆余曲折があるものと思われる。
 この「103万円の壁を破る」「手取りを増やす」というフレーズはわかりやすい政策に思えるが、その「手取り」はどれだけ国民ひとりひとりの財布に入るのだろうか。
《所得税の算出方法》
 所得税を算出するためにはまず「所得」がいくらになるかを計算する。自営業者は収入から経費を引いた金額が「所得」になるが、給与所得者の場合、収入から給与所得控除を引いた金額が「所得」となる。
 給与所得控除は最低保証55万円(収入により計算され、収入が161万9千円までは55万円、最高は195万円)。基礎控除は48万円(所得の合計が2400万円まで、2450万円までは基礎控除は32万円、2500万円までは基礎控除は16万円)なので、収入が103万円以下の場合は課税されない。
 これを「壁」にたとえ、国民民主党は「178万円まで引き上げよ」と訴えている。この訴えが若者の心に刺さり大躍進した。
 次に、「所得」から税額の基礎となる金額(課税所得という)を計算する。具体的には「所得」から基礎控除や扶養者控除、社会保険料控除、医療費控除などを差し引いた金額が「課税所得」となる。この金額から所得税を計算する。
 所得税額は課税所得から計算され累進的に増加する。194万9千円までは5%、これを超過し329万9千円までは10%、さらに694万9千円までは20%(これより上は略する)となっている。
《国民民主党の主張どおりとなった場合》
 上記を踏まえて、ほかの控除を無視し試算してみる。178万円まで「壁」が移った場合、収入178万円の人は75万円×5%で3万7500円減税となり、それだけ財布にはいるお金(「手取り」)が増える。ところが、課税所得405万円で20%課税されている人は、75万円×20%で「手取り」は15万円増えることとなる。低所得の人のための政策と思っていたが、中堅所得者で4倍の「手取り」だ。
〈注1〉収入が2500万円超の場合、基礎控除がないので超富裕層は最初の与党案にある給与所得控除10万円プラスのみになる)
〈注2〉最初の協議で非課税限度額20万円アップのうち10万円を給与所得控除とした。そのため自営業者の場合は基礎控除のみのアップとなる)
《勘違いで支持している!》
 満額回答となった場合でも「心に刺さった」低所得者の懐にはいるお金は5万円にならない。中堅所得者からプチ富裕層のほうが多くの手取りを得る。岸田政権が実施した定額減税のほうが平等だった。
 玉木代表の街頭演説の映像をもう一度確認したが、非課税の限度額を上げるとしか言っていない。はっきり言ってしまえば、「有権者の勘違い」で支持されている。いつまで支持されるのかわからないが、懐で実感するのは年末以降の話だ。
《所得再配分になる税制を》
 低所得者の生活向上を図るため非課税の限度額を上げることは大賛成だが、高所得者まで恩恵を受けることは疑問だ。逆に、最高税率をひき上げ所得再配分となるようにすべきではないか。
《所得の「壁」について総合的に議論を》
 この「103万円の壁」のほかに、厚生年金の加入基準(50人以上の法人事業所)である「106万円の壁」、健康保険などの被扶養者基準の「130万円の壁」など様々な「壁」が取り沙汰されている。
 多くの女性が夫の扶養の範囲内に所得を抑えるためにこの「壁」を越えないよう調整して働いている。最低賃金が上がっても扶養の範囲で働けば「手取り」は増えない(増やせない)。「壁」を個別に議論せず、女性の働き方や生き方(男性も含めて)の問題として少子高齢化の問題と合わせ総合的に議論しなければいけないのではないだろうか。
(2月27日記)
若嶋秀明(新社会党須磨総支部書記長)