新社会兵庫ナウ

私の主張(2024年9月11日号)
コメ不足問題を考える今こそ農業政策の転換を

2024/09/11
 7月下旬からコメ不足が大きな社会問題になっている。スーパーのコメ売場がカラッポになって騒ぎが起きたり、銘柄によっては5㌔の無洗米が千数百円に値上がりしたとの報道もある。そうしたなか、安全・安心な食料の提供に力を注いでいる「(有)ぴぃぷる」は、コメの追加注文の問い合わせの対応に追われるなか、価格の動向に神経をとがらしている。また、食料支援に取り組むフードバンク関係者は、「食料の提供を契約している複数の民間会社からのコメの提供が7月からゼロになった」として、行政などに支援強化を求めている。コープこうべは、8月から各店舗でコメの購入制限を始め、宅配注文は抽選にすると発表している。アマゾンも即配達できるのはタイ米のみとしている。
 東北の農家からの報告では、「田植えが始まるころから業者がコメを求めてひっきりなしに訪れるようになり、提示してくる買い取り価格も去年より大幅に高いものだった」という。この時点で農家が感じ取ったのは、「業者はコメ不足の深刻化は不可避と読んだうえでの行動ではなかったか」ということだった。
 今回のコメ不足は、直接的には異常気象によって2022年産米から今年にかけて新潟などを中心に減収に転じたことや、ウクライナ戦争による小麦価格の高騰、外国人旅行者の急増でコメの消費が拡大したことなどが要因として指摘されている。
 政府は「今回のコメ不足は一時的なもので、新米が市場に出る9月下旬には解消する」と断言する。7月の衆参の農水省部会では、「今後もコメの消費量は減り続ける」とし、コメの増産の必要性はないとの認識を示している。けれども、高騰しているコメ価格への対応策は示されていない。政府は人びとの暮らしをどう守るのか、明らかにすべきだ。今こそコメ政策の転換に踏み出す時ではないのか。
 ともあれ、こうした事態を招いたのは、一貫してコメの消費は減るものとして2018年まで50年以上にわたって実施してきた減反政策にある。1957年の新長期経済計画で農業者を6年で5%減らす計画を策定。1960年の「所得倍増計画」では、「10年間で農業者人口を30%減らし工業部門へ振り向ける」とした。こうした流れを受けて、農業の憲法とされる「農業基本法」が1961年に制定される。この法律は、貿易自由化推進のために、自動車や電機など経済成長の花形である輸出産業を下支えする産業の一部門として農業を位置付けた。輸出産業の推進のために農業をはじめ第1次産業に犠牲を強いてきた。同時に国は、大都市経済を優先し合理性を重視する社会システムの構築に力を注いだ。その結果が中山間地の過疎化と高齢化であり、37%という最低の自給率だ。
 自公政権は今年、この農業基本法の「改正」を強行した。これは「食料安全保障」を前面に押し出し、輸入途絶など不測の事態に備え、コメ・麦の増産や作付け転換の強制を可能にするもので、例えば強権的に花農家にイモを作らせることもできる、まさに「戦時食料法」そのものだ。農業の再生や食の安全にどう取り組むかといった発想はみじんもない。
 私は、今こそ農業・農村の再生に資金を投入し、農村地域の整備拡充に取り組み、自給率の大幅引き上げに力を注ぐこと。さらに、戸別所得保障をはじめとする家族農業施策の充実、遺伝子組み換え種子(F1)の使用制限・排除と有機農業の推進、地産地消運動の展開などに力を注ぐべきだと考える。
 ウクライナ戦争やガザでのジェノサイド、地球温暖化などによって、世界の飢餓人口は8億2800万人に達している(WHO発表)。仮にコメが余って困るのであれば、食糧難にあえぐ国や地域への援助に回せばよい。コメの生産が活性化すれば、休耕田は減少し、かつての緑豊かな農村風景が蘇る。
 「街中で育った友達は稲の代わりに植えたコスモスの咲き誇る風景を見て、綺麗!と感動するが、私には悲しい風景でしかない。私にとっては、見渡す限り続く稲田の光景こそが幸せの光景です」―これは稲作農家で育った友人が減反でコメ作りが大きく制限されたころ、思わず吐露した言葉だ。
米作を中心とする農業は、食糧生産の役割のほかに貯水機能や洪水防止、多様な生き物を育むなど多面的な機能を持っている。緑豊かな農村と農業の維持・発展を願ってやまない。
(8月28日記)
鍋島浩一(兵庫県農業問題懇話会)