新社会兵庫ナウ

おんなの目(2024年9月11日号)
大学院を終えても…

2024/09/11
 大学院を終えても、大学で講師や准教授の仕事がない。 10年ほど前から平和マップに関わってくれた大学講師の方から、5月に「パワハラで仕事を辞めた」と相談があった。それまで働いていた大学が日本語教育と韓国語などのコマ数減で雇い止めになる、と仕事を探していたが、4月から外国語と日本語教育の講師枠を得て落ち着いていた。しかし、今回はとんでもない同僚のパワハラがあった。しかも、その同僚は精神疾患で、職への不安も大きかったようだ。大学の労働組合は間に入ったが、手が打てなかったという。相談中に「7月から運よく別の研究所で仕事に就いた」というので、ほっとした。8月も、「日本語の実態調査、資料整理」で休みが取れず、神戸には行けないと彼女は嘆くが、とにかく仕事があってよかった。
 お盆前に図書館から予約本の連絡がきた。額賀澪著『青春をクビになって』(文芸春秋)。予約した覚えのない本だと思いながら読んでみた。『古事記』を研究するポスドク研究員の話だった。1987年生まれ、相談にのった人と1年しか違わない。2つの大学の講師を3コマずつ持ち働いていた。1コマ90分で8千円、2校分で20万円足らずの月収で3 年目。親にも時々応援をもらっていた。彼が今年で雇い止めと言われたところから始まる。『古事記』の面白さが書かれていて、夢を持って研究を始めた先輩、同級生と主人公。夢破れホームレス状態になって、あこがれの『古事記』を抱きながら比婆山で亡くなった先輩、レンタルフレンドという人材派遣会社を設立する同級生。息子に期待を寄せてきたそれぞれの両親や、レンタルフレンド依頼者として出会った人々の様々な思い。研究者として生きようとしたのに自死した先輩を見て、見切りをつけて学習参考書の編集者の仕事を選んだ主人公。
 今を生きる若い人々の息苦しさ、仕事につく難しさをひしひしと感じてしまう。「トランクルームに住む」という状況も書かれていた。就職氷河期に職につけず、苛立ちからSNSを使って人を攻撃するという人の話もあった。
 一方で、大学から聞こえてくる文科省の無策への悲鳴、理念もなく変えられる大学施策、国立大教授であっても、「予算が取れなくてその研究には十分関われない」と嘆かれたり、大学の学部再編に振り回され、学生は教員資格も取れなくされている、とぼやかれたりする。
 小中高校でも同じだが、若い教員の正規採用は厳しい。博士課程を修了しても、研究実績と論文評価、教授の支援と運よく枠があかないと就職できないという。文系よりは理系が有利かと思ったが、企業への就職は少し枠があるが、大学に残るのは大変という。
 空襲・戦災を記録する運動にとっては、研究者の存在は欠かせない。しかし、資料館や図書館、博物館などの学芸員の仕事は、ほとんどが5年契約や会計年度任用職員で、賃金が低く、待遇も悪い。近代史・現代史専門の大学の教員も決して多くない。長年取り組んでくださった大学教員の方々の後が育ってない。今、原爆模擬爆弾の調査に取り組んでいる大学院生も、何とか継続して大学に残ってほしいと願っている。
(小城智子)