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寺前楽座“まちの灯り“ ひょうごのまちを訪ねて 神河町

2020/06/30

町の玄関口にあたるJR寺前駅前に住民の力で再建したスーパー「寺前楽座“まちの灯り“」

住民の力で地域で唯一のスーパーを再建
上野英一議員に聞く


地域の住民らが開店資金の一部を出し、2018年7月末、JR寺前駅前(神崎郡神河町)にオープンしたスーパー「寺前楽座“まちの灯り“」。いわば住民の力でこの地区で唯一のスーパーマーケットが再開されたのだ。再開にあたってその事業の中心で尽力した上野英一(ひでかず)県会議員(神崎郡選出。4期目)を訪ね、そのいきさつや苦労などについてお話を伺った。【編集部】
 
「兵庫のまんなかでキラリと光るまち」
 神崎郡神河町。町の公式ホームページには「兵庫のまんなかでキラリと光るまち」とある。兵庫県のほぼ中央にハート型で位置し、峰山・砥峰高原など豊かで美しい自然に恵まれた神河町は2005年に「平成の合併」で神崎町と大河内町が合併して誕生した。4186世帯、1万1165人で県内で最も人口の少ない町だ。本紙読者には、山名宗悟町長をはじめ、上野英一県議や吉岡嘉宏町議らが活動しているなじみの町だ。女優のんの出身地でもある。
駅前のスーパーが閉店
 2017年8月末、旧大河内町の玄関口にあたるJR播但線・寺前駅前にあったスーパーが倒産し、突然の閉店となった。高齢化が進む周辺の地域には大きなショックであり、「まちの灯りが消えたようだ」と感想を漏らす人もいた。実際、たちまち日々の買い物にも不自由することになり、そのため、多くの住民から上野県議をはじめ、役場や町会議員、区長らに「何とかしてほしい」の声が寄せられるようになった。
 しばらくは、店舗に隣接する3つの地区でこれまでなかった移動販売車を手配したり、社会福祉協議会が買い物送迎バスを一時的に運行するなどして急場をしのいだ。
地区住民の約8割が再開を願望
 そんななか、9月初旬、あるお通夜式の際に、上野県議や地元の町議、地区の役員で再開に向けた話し合いが持たれた。
 その後、ひき続き経営を引き受けてもらえる業者を探したがそんな業者は見つからない中で、閉店したスーパーの店長だったF氏や土地・建物の所有者であるJA等に経営状況の聞き取り調査などを行うとともに、再開への全面的な協力依頼も行った。
  さらに、今後の経営形態を考えたとき、将来も持続可能な経営のためには、旧寺前村の11集落で運営会社を設立して、集落の住民が「おらが店」としての利用を図ってもらうしか道はないとの結論に至った。
この結論に基づき、上野県議らは11区長を一人ずつ家庭訪問し、話し合いの場を持ってもらうように要請。10月26日、意見交換会が持たれることになり、最終的にはその場で旧寺前村11集落の全世帯(約1300世帯)にアンケートを行うことが確認できた。そして、12月11日、アンケート結果の報告会が開かれ、79%の住民が店舗の再開を強く願っているという結果が報告された。この結果を受け、一刻も早い後継店の開店を目指すことが確認された。
再建へ運営会社の設立
 そして、12月27日、上野県議ら有志を中心に役場も調整役として加わって作成された再建案を11集落の区長と意見交換をしながら方向性と具体案を決定していった。
再建にあたっては、店長は旧スーパーの店長で利用客との信頼関係が厚かったF氏をおいて他にないと判断してF氏に依頼を行って了解を得、さらに、経営のプロの参画も不可欠との判断から1つの企業と地元愛の強い2人の経営者の参画を求め、運営会社の設立準備に入った。こうした結果、代表取締役社長に上野県議が就いたほか、取締役を地元の町議や元店長、経営のプロ2人と企業1社で構成し、その6者で一定額を出資する運びとなった。
 また、資金・経営計画として、土地建物をJAから取得することや、運転資金として旧寺前村の1226世帯から1世帯1万円の出資(原資は財産区から提供)を要請することなどを計画した。
いよいよ開店準備へ
 運転資金として、地区の住民1世帯1万円の出資を財産区から提供してもらうことも11区長から財産区への申し入れによって決定された。
 売上目標など経営計画も進み、2018年3月の開業をめざしたが、その後、ショーケース等は全品入れ替える必要があることなどが分かり、新たに4600万円が必要となった。
 そこで3月からは国・県の補助金を模索した結果、幸いにも総務省の地域経済循環創造事業交付金と県の地域再生大作戦等の補助金を受けられることになった。前者は、地方創生の先進的な取り組みとして認められたのだろう、6月末に全国で4市町村の一つとして採択され、国と神河町の随伴、半分を地元企業が貸し付けを行う事業スキーム約4150万円を確保。財産区や国・県の交付金、金融機関からの借り入れなども含めて約8200万円の事業費となった。
 また、開店にあたり、生鮮食糧品以外のメーカー等の加工食品の仕入れ先として、全国で1800店が加盟するボランタリーチェーンである全日本食品(株)との取引が成立した。これによって大手スーパーに負けない価格での仕入れが可能になり、競争に耐えうる態勢ができた。
「まちの灯り」の復活
 さらに屋号も、まちの灯りを取り戻そうと「寺前楽座“まちの灯り”」に決定。いよいよ7月末からの開店にこぎつけた。
 運営については最終的に株式会社とし、「(株)寺前村振興公社」を設立。取締役として上野県議と地元のM町議が、監査役には地元区長が就任(全員無報酬)し、取締役ではなく寺前活性化協議会(11区長)を最高議決機関とした。
 そしてついに2018年7月30日、念願の地域唯一のスーパーマーケットのグランドオープンとなった。
 店内には地元生産者からの産直コーナーをはじめ、手作りの総菜や弁当のほか、飲料品、肉、魚、野菜、冷凍食品、日用品など定番のアイテム約2千商品が並び、人々のふれあいや語らいも戻ってきた。
 上野英一県議は今後の展望について、店舗のさらなる充実と従業員の待遇改善、経営スタッフの育成などをあげる。さらに、このスーパーをもとに今後はソーシャル・コミュニティビジネスをも考え、地域の運動の核にしたいとの思いもある。
 「地域に根ざしたところで、われわれ自身がコミュニティをつくっていくことが重要だと思う。そんなことがいま求められているのではないか」と語る。

スーパーの再建へ中心的な役割を担った上野英一県議会議員