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私の主張(2024年6月12日号)
納付期間の延長を検討−「25年年金改定」を考える
2024/06/12
日本の「社会保障制度」をめぐる課題は極めて深刻だ。私たちはこの間、介護保険の改悪反対に取り組んできた。利用者の負担が大きく増え、利用したくても利用できなくなる人が大幅に増加することは決して許されるものではないからだ。介護保険(制度)しかり、医療保険(制度)しかり。そして、公的年金はどうだろう。2004年、巧妙な年金給付の抑制策が打ち出され今日に至っている。
昨今、またまた年金制度についての報道や論評が目立つようになってきた。「国民年金納付5年延長」「高齢者の働き損・解消策」などだ。実は来年2025年が年金の改定時期になり、その前年、つまり今年が改定の指標となる「年金財政検証」の年になるからだ。
「財政検証」は、「社会、経済の変化を踏まえながら適切な年金数理計算に基づいて長期的な健全財政を定期的に検証」ということだが、主には人口、経済、そして労働力をもとに将来の見通しを立てるものだ。人口の減、したがって労働力の低下、またデフレ経済状態が続く状況はこれまでに変わりなく、財政検証は厳しいものになることが予測される。
■マクロ経済スライドの破綻
国は年金保険料を固定化(高止まり、約1万7千円)にして、そこで年金給付を徐々に下げていくための制度を導入した。それが「マクロ経済スライド」だ。
当初のもくろみは、現役男性の平均手取り収入に対する年金給付額の割合は59・3%から50・2%(2024年)にまで低下し(この所得代替率は50%を下がらないのが約束ごと)、マクロ経済スライドの役割を2023年で終えるはずであった。しかし経済はデフレが続き、これまで4回しか発動はなく、抑制が高止まりになっていると指摘され、マクロ経済スライドの延長があらためて進められることになる。
■国民年金納付5年延長
さて、来年の年金改定にあたって、すでに検討されていることも見てみると、まず第1に、国民年金の納付期間の5年延長(20歳.65歳)だ。現在の制度では20歳から60歳までの40年だ。納付期間を5年延長することによって給付額は増えるが、その分保険料も増える。また、国民年金は財源の半分を国庫負担で賄っている。ここでは租税=増税の議論は回避されない。被保険者が5年さらに長く払うことへの負担感、そしてそれでなくとも年金に対する不信感は一層募るばかりだ。
また、同時に厚生年金保険者期間のさらなる延長が検討されている。75歳までとする「改正案」がつくられるかもしれない。75歳まで加入し、保険料を払った人は91歳まで生きてやっと元が返る計算にもなる。なんという仕打ちだろうか。
■被保険者の拡大
第2に、厚生年金被保険者の対象拡大だ。これまでに賃金要件月額8・8万円以上、労働時間要件週20時間以上、従業員数50人以上(本年10月実施)についてはすでに実施されている。5月29日の新聞報道は、厚生年金の適用拡大として「企業規模の条件撤廃」の見出しで130万人が適用されるとの政府方針を掲載している。これは財源確保の一環だ。
さらに検討されるのが3号被保険者の扱いだ。3号被保険者とは2号被保険者(厚生年金・共済組合)の扶養になっている配偶者を言い、「保険料」の支払いはない。給付は1号被保険者(国民年金被保険者・自営業など)と期間に応じて同額が受けられる。検討が言われているのは3号被保険者を1号ないし2号にして適用を拡大するというもの。
■3号被保険者は廃止すべきだ
今ある3号被保険者は、日本の家族制度に基づく夫婦概念が今日なお通底にあり、その具現化に他ならない。専業主婦優遇として批判されてきたが98%は女性であり、非就業、あるいは低収入に押しとどめることでキャリア形成にも障害になると指摘される。3号の見直しは当然のことだ。
■制度維持だけのためではなく国民のための年金に
これまで取り上げてきた改定事項は一口にいうと年金制度の維持のための施策と考えるべきだろう。とりわけ加入期間の延長や適用の範囲の拡大は「保険料収入を得るもの」としてあまりにも露骨である。制度の維持と給付の抑制が貫かれていることは変わりない。
私は次の2点を今後の年金改革の柱にすべきだと考える。その一つ。制度維持と給付抑制に固執する年金政策から「豊かな老後を年金で」のための年金へと変革するために、「マクロ経済スライド方式」は取りやめるべきだ。
二つ目。国民生活が一層苦しくなる中、基礎年金は老後のセーフティネットとの位置づけを確認すべきだ。そして、その財源は全額政府予算の一般財源とすることが重要である。2019年の、年金だけでは不足するといういわゆる「2千万円問題」、足らずは預金、資産運用でという無責任極まりない国の年金に対する考えが公然と明らかにされている。
今後1年近くにわたり2025年年金改革の動きは活発になっていく。注視することと合わせて国民が納得いく年金制度とは何かを考えていこう。
三木平(地域型年金相談員)
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昨今、またまた年金制度についての報道や論評が目立つようになってきた。「国民年金納付5年延長」「高齢者の働き損・解消策」などだ。実は来年2025年が年金の改定時期になり、その前年、つまり今年が改定の指標となる「年金財政検証」の年になるからだ。
「財政検証」は、「社会、経済の変化を踏まえながら適切な年金数理計算に基づいて長期的な健全財政を定期的に検証」ということだが、主には人口、経済、そして労働力をもとに将来の見通しを立てるものだ。人口の減、したがって労働力の低下、またデフレ経済状態が続く状況はこれまでに変わりなく、財政検証は厳しいものになることが予測される。
■マクロ経済スライドの破綻
国は年金保険料を固定化(高止まり、約1万7千円)にして、そこで年金給付を徐々に下げていくための制度を導入した。それが「マクロ経済スライド」だ。
当初のもくろみは、現役男性の平均手取り収入に対する年金給付額の割合は59・3%から50・2%(2024年)にまで低下し(この所得代替率は50%を下がらないのが約束ごと)、マクロ経済スライドの役割を2023年で終えるはずであった。しかし経済はデフレが続き、これまで4回しか発動はなく、抑制が高止まりになっていると指摘され、マクロ経済スライドの延長があらためて進められることになる。
■国民年金納付5年延長
さて、来年の年金改定にあたって、すでに検討されていることも見てみると、まず第1に、国民年金の納付期間の5年延長(20歳.65歳)だ。現在の制度では20歳から60歳までの40年だ。納付期間を5年延長することによって給付額は増えるが、その分保険料も増える。また、国民年金は財源の半分を国庫負担で賄っている。ここでは租税=増税の議論は回避されない。被保険者が5年さらに長く払うことへの負担感、そしてそれでなくとも年金に対する不信感は一層募るばかりだ。
また、同時に厚生年金保険者期間のさらなる延長が検討されている。75歳までとする「改正案」がつくられるかもしれない。75歳まで加入し、保険料を払った人は91歳まで生きてやっと元が返る計算にもなる。なんという仕打ちだろうか。
■被保険者の拡大
第2に、厚生年金被保険者の対象拡大だ。これまでに賃金要件月額8・8万円以上、労働時間要件週20時間以上、従業員数50人以上(本年10月実施)についてはすでに実施されている。5月29日の新聞報道は、厚生年金の適用拡大として「企業規模の条件撤廃」の見出しで130万人が適用されるとの政府方針を掲載している。これは財源確保の一環だ。
さらに検討されるのが3号被保険者の扱いだ。3号被保険者とは2号被保険者(厚生年金・共済組合)の扶養になっている配偶者を言い、「保険料」の支払いはない。給付は1号被保険者(国民年金被保険者・自営業など)と期間に応じて同額が受けられる。検討が言われているのは3号被保険者を1号ないし2号にして適用を拡大するというもの。
■3号被保険者は廃止すべきだ
今ある3号被保険者は、日本の家族制度に基づく夫婦概念が今日なお通底にあり、その具現化に他ならない。専業主婦優遇として批判されてきたが98%は女性であり、非就業、あるいは低収入に押しとどめることでキャリア形成にも障害になると指摘される。3号の見直しは当然のことだ。
■制度維持だけのためではなく国民のための年金に
これまで取り上げてきた改定事項は一口にいうと年金制度の維持のための施策と考えるべきだろう。とりわけ加入期間の延長や適用の範囲の拡大は「保険料収入を得るもの」としてあまりにも露骨である。制度の維持と給付の抑制が貫かれていることは変わりない。
私は次の2点を今後の年金改革の柱にすべきだと考える。その一つ。制度維持と給付抑制に固執する年金政策から「豊かな老後を年金で」のための年金へと変革するために、「マクロ経済スライド方式」は取りやめるべきだ。
二つ目。国民生活が一層苦しくなる中、基礎年金は老後のセーフティネットとの位置づけを確認すべきだ。そして、その財源は全額政府予算の一般財源とすることが重要である。2019年の、年金だけでは不足するといういわゆる「2千万円問題」、足らずは預金、資産運用でという無責任極まりない国の年金に対する考えが公然と明らかにされている。
今後1年近くにわたり2025年年金改革の動きは活発になっていく。注視することと合わせて国民が納得いく年金制度とは何かを考えていこう。