改憲の動きをウオッチング

2020年6月9日号

2020/06/16
黒川氏の厳正な処分と、同氏の定年延長の閣議決定・検察庁法改定案の即時撤回を強く求める
 インターネットなどで起こった怒りのウネリと国会における野党の論戦が、政府・与党を今国会での検察庁法改定案の成立断念に追い込んだ。
 日弁連は2度にわたって「反対声明」を公表し、元検察トップ14氏が連名で反対意見書を法務大臣に提出した。「政府提出法案に対し、公然と反対する行動を起こすのは極めて異例だ」(朝日)。
元検察トップらが提出した意見書は、かなりの長文であるが、非常に読みやすく、わかりやすい。5月28日現在、政府・与党は、廃案にするのか、それとも継続審議にするのか、まだ結論を出していない(会期末は6月17日)。秋の臨時国会に向けた闘いに備えて「意見書」を読み直してみる。さわり部分はこうである。結論部分は私たちに対する檄文でもある。
 「正しいことが正しく行われる国家社会でなくてはならない。黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きであり、ロッキード世代として看過し得ないものである。関係者がこの検察庁法改正の問題を賢察され、内閣が潔くこの改正法案中、検察幹部の定年延長を認める規定は撤回することを期待し、あくまで維持するというのであれば、心ある国民すべてがこの検察庁法改正案に断固反対の声を上げてこれを阻止する行動に出ることを期待してやまない」。
 意見書は、閣議決定は違憲・違法だとしている。
 検察庁法には「定年延長を可能とする規定はない。従って検察官の定年を延長するためには検察庁法を改正するしかない」「この閣議決定による黒川氏の定年延長は検察庁法に基づかないものであり、黒川氏の留任には法的根拠はない」。
  検察庁法改正問題について意見書は、「注意すべきは、この規定は内閣の裁量で次長検事および検事長の定年延長が可能とする内容であり、前記の閣僚会議によって黒川検事長の定年延長を決定した違法な決議を後追いで容認しようとするものである。これまで政界と検察との両者間には検察官の人事に政治は介入しないという確立した慣例があり、その慣例がきちんと守られてきた。これは『検察を政治の影響から切りはなすための知恵』とされている(元検事総長伊藤栄樹著『だまされる検事』)。検察庁法は、組織の長に事故があるときまたは欠けたときに備えて臨時職務代行の制度(同法13条)を設けており、定年延長によって対応することは毫(ごう)も想定していなかったし、これからも同様であろうと思われる。今回の法改正は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を殺(そ)ぐことを意図している」。
  さらに意見書は、法案提出の狙いとして「衆議院本会議で、安倍総理大臣は『検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした』旨述べた。これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって」、「三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる」と指摘している。
 黒川氏は賭けマージャンの発覚で辞任した。黒川氏が辞めても、仮に法案が廃案になっても、定年延長の閣議決定は残る。
閣議決定を残せば検察人事への政治介入の危険性がある。法案廃案と閣議決定撤回はセットでなければならない。(中)