新社会兵庫ナウ

私の主張(2024年3月27日号)
「賃金の上がらない国」から「賃金の上がる国」へ

2024/03/27
 20年以上にわたり実質賃金が下落する中で24春闘は展開されている。春闘の「主役」は労働組合だと思うが、なぜか今年は政労使が「前年を上回る賃上げ」で足並みをそろえる予定調和。ただでさえ存在感がない労働組合の影がさらに薄くなるという声が上がるのも無理はない。とはいえ、全労連や全労協傘下の労働組合では、ストライキや集会、デモによる賃金引上げの闘いが広がっている。

 13日の集中回答日を迎え、自動車、電機、鉄鋼、重工など大手主要産業は昨年を上回る「満額一発回答」が相次いだ。また、連合傘下のUAゼンセンの平均賃上げ率はパートタイムで6・45%(時給70・8円相当)、正社員で5・91%と過去最高になったと発表している。今春闘は大手企業を中心に高い賃上げ率が発表されているが、この賃上げの集計には労働組合のない大半の中小企業や非正規は含まれていない。重要なことはこの賃上げの勢いを雇用の7割を占める中小零細や非正規に波及させられるかどうかである。

 1月16日、経団連は財界側の春闘指針「経営労働政策特別委員会報告」を発表している。報告は「物価上昇に負けない賃金引上げを目指すことが経団連・企業の社会的な責務」と明記している。しかし「構造的な賃金引上げ」の実現には「生産性の改善・向上は不可欠」と資本の論理でクギをさしている。また報告は、昨年「数十年振りに大規模なストライキが実施された」ことに触れて、労使は「闘争関係」ではなく、価値を「協創」する「経営のパートナー」と述べている。
 それにしても、「賃金引上げが企業の社会的責務」などとよく言えたものだ。この30年間、日本の労働者を異常な低賃金に抑え込んできたのは、ほかならぬ大企業と自民党政府である。労働法制の改悪で労働者を正規と非正規に分断し、差別と競争の成果主義で団結を崩し、ものが言えない職場を作り出してきたのは経営側ではなかったのか。その結果、日本の賃金は国際水準に比べても大きく見劣りするようになり、個人消費は停滞し、若者は未来に希望が持てず、結婚も子どもを持つことも諦める「希望のない国」となったのだ。

 今年の春闘のベースアップは労働組合の力というよりは、「記録的な物価高騰」と「人材獲得競争」が日本経済の先行きに危機感を持つ経済界の背中を押したという印象は否めない。賃上げが財界と岸田政権の思惑で決まったのであれば、この先、財界と政府の都合で賃金のみならず、労働者の権利が抑え込まれても不思議ではない。それを許さない「職場
の団結づくり」が今ほど求められているときはない。

 そこで、課題について私見を述べたい。
 第1は、職場や地域で集まる場を作ることだ。日頃は労働組合に無関心な人にも春闘期には声を掛けやすい。たとえば明石では昨年、市内
11職場から23人集めて「働く女性の交流会」を開催している。武庫川ユニオンは尼崎地区労と共催で、年明けから連続的な学習会を3回開いている。こうした取り組みは神戸地区労や東播労組交流会でも行われている。「失われた職場の団結」を取り戻す運動を強めよう。
 第2は、非正規雇用の待遇改善と正規化の促進である。
 厚労省は、「無期転換5年ルール」をめぐるトラブルが年間1万6千件以上に達しているという理由で、4月から雇用契約時と更新時に「更新上限の有無」と「期間の明示」を企業に求める労基法施行規則を改正した。だがこの見直しでは有期雇用の更新上限を追認し、「無期転換逃れ」を増やすだけである。せっかく勝ち取ってきた働き続ける権利がまた崩されようとしている。働く者の約4割が非正規労働者、これを置き去りにして労働組合の未来はない。連帯をしよう。
 第3は、全国一律の最低賃金法の改正をめざす取り組みだ。春闘で一定額の底上げがされたとしても、大企業と中小企業、正規と非正規、男女間の賃金格差は依然として大きい。これを是正する最善の方法が、「最低賃金の大幅アップ」である。兵庫県パート・ユニオンネットワークは今年もパートアクションで「最低賃金1500円」をめざす宣伝・デモを実施した。そして昨年、靴小売大手のABCマートの賃上げで話題となった「非正規春闘」は、今年10%以上の賃上げ要求をかかげ、約120社(去年36社)と交渉をしている。黙っていては何も変わらない。声を上げよう。行動を起こそう。
 第4は、要求を勝ち取ることも大事だが、奪われるものに対する反撃も重要だ。岸田政権は金持ち優遇税制には手を付けず、1年限りの所得減税と引き換えに、医療・介護保険制度の大改悪をはじめ、扶養控除の見直しや森林環境税(年間1000円の負担)、防衛増税などの大増税を目論んでいる。労働組合の政治闘争は避けて通れない課題である。「今だけ、カネだけ、自分だけ」で国民の暮らしを顧みない自民党政治を変えるたたかいを広げよう。
岡崎進(ひょうごユニオン委員長)