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お笑いは平和でないと成り立たへん

2020/05/26

露の新治さん
 

落語家 露の新治師匠にインタビュー
  緊急事態宣言でイベントや寄席等の自粛が要請されるなか、落語家の方々も出演の場が途絶えてたいへん厳しい状態に置かれている。いつも新社会党を応援していただいている露の新治師匠に4月30日、お話しを伺った。聞き手は編集部(岡崎彩子)。
 
― コロナ禍のなか、露のさんご自身にはどんな変化がありましたか。

露の新治さん(以下、露の) 2月26日からキャンセルが始まりました。そのちょっと前に安倍が「学校、閉め」と言うたんですな。これで急に自粛ムードが高まって、3月は18本、4月は8本流れて、全滅です。無収入です。
 年金はありますよ。国民年金。だから収入は国民年金だけです。5月も6月も流れて、もう9月も危ないんちゃうかと。

― 若手の方はどうですか。

露の 若手は全くの無収入。それでなくとも若手は落語一本で食べていくのは難しいんで、アルバイトしてる人があるくらいです。落語界にとって、ほかの世界もそうでしょうけど、大ピンチやね。
 家賃、生活費、子どもさんの学費から何から、いろんなもんが毎月毎月いるわけで。3か月間は何とか持ちこたえても、これが半年、1年になったら深刻な問題になってくると思います。
 私らの仕事いうのんは、昔から半分シャレで、「私らみたいなんは、あってもなくてもええ商売でんねん」と言うてますけど。ホンマに一番最初に「不要不急」と切り捨てられる商売やいうことがようわかりました。
 ただね、ドイツのメルケル首相が「あなた方は必要です」と言うてくれた。ありがたかったねえ。「あなた方」の中に落語家は入ってるかどうかはわかりませんけど(笑)

― 上方落語協会が大阪府に経済的支援と終息後の落語の鑑賞機会の拡充を求める要望書を送られましたが……。

露の 国会の落語議員連盟にも陳情してます。一般社団法人日本演芸家連合も陳情してますね。回答は今のところ、ないです。

― なかなか見通しが立たない中、何か考えておられることがありますか。

露の 私は今は何もするつもりはありません。インターネットの配信とかもね。人が寄ったらあかんのやから、家に籠ってようと思います。終息を待つのが賢明やと思います。僕とこに稽古に来たい言う人も「遠慮します」て言わはった。僕も誰かのとこへお稽古に行ってネタ増やしたいけど、今は避けようと思うてます。終息をひたすら待ちながら、まず生き延びることでしょ。落語家としても生き延びることやと思いますわ。再開した時に、ちゃんと高座が務められるように維持しとかなあかん。

― ご自身、業界全体で心配なこと等、思いの限りを教えてください。

露の 僕は、一般の社会で言えばもうとっくにリタイアしてる年です。落語家やからやれてるんで。ただ、これから生活基盤作って、落語家として格好つけていかなあかん人たちにとっては、ホンマに足元すくわれてると思います。僕らとしては、誰一人としてコロナで廃業の無いように支え合いたいけど、出演する場(集まれる場)を作れないからね。どないしていいのか。ただもう我慢するしかないよね。
 落語に限らずやけど、舞台の上、高座の上から何かしてるいうのが、全てやないねん。聞き手(お客さん)と私らとの間でやり取りがあって、その間に成立するのが落語、芸なんです。それを肌で感じながら演じていくことが、何よりの勉強。昔から「稽古100回、板(高座に立つ)1回」言うんです。100回家で稽古するより高座に1回上がる方が勉強になるということ。その「板」が無くなってるわけやから。
 それからね、今回の事で、CO2なんかずいぶん減ってるんやないかと思います。これで自粛解除になって(経済活動)再開したら、さあ、前みたいにじゃんじゃん物を消費して、空気汚して、また経済や言うて。それでええんかと思いますね。
 コロナは単なるコロナですやん。それがこんな形で世界中がフリーズするようなことになる、そういう社会になってるいうことがわかったんやね。どないしたらええか分かりませんけど、1つだけ言えるんは、コロナでこんなことになるんやから、絶対に戦争なんか出来へんと思いましたわ。

― 長時間ありがとうございました。最後に読者に向けてなにか一言お願いします。

露の 1つは、コロナ騒ぎでモリカケ・桜・マスクを忘れんようにしましょうな、ということ。「非常事態」や言うて流し込まれてるけれども、これを悪用されるような危険もあると思いますので、それには気を付けなあかんなと思いますね。
それともう1つは、やっぱり生きてなあかん、ということですわ。
 ホンマに世の中が平和やないと、僕らのような仕事は成立しないと前から思ってきたけど、ホンマにしみじみ分かりましたねえ。お笑いいうのは、平和な世の中でないと成り立たへん。ということは、寄席で皆さんがワーッと笑えるというのは、ホンマにええことなんやなと。そんな光景がもういっぺん戻るように、願いもしますし、やれることはやっていこうと思うてます。
昔から芸人は道楽商売と言われ、米朝師匠なんかも「芸人、末期は哀れ、覚悟の上やで」とその師匠から聞かされて、この世界に入ってるわけです。しかし、末期は哀れではあかん。芸人が楽しく高座を務められるような世の中でないとあかんのやと思います。

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得意ネタは、大丸屋騒動、柳田格之進、中村仲蔵、七段目、蔵丁稚、鹿政談、井戸の茶碗、蛸坊主、狼講釈、兵庫船、紙入れ、ちりとてちん、相撲場風景、高津の富など
●出囃子は、『金毘羅』
●2015年、文化庁芸術祭優秀賞受賞。

神戸・新開地にある常設の寄席、喜楽館も3月上旬から休館したままだ