新社会兵庫ナウ

おんなの目(2023年12月13日号)
在日ブラジル人のAさん

2023/12/13
 2022年末現在、日本にいる中長期在留者・特別永住者のブラジル人は20万9430人(194か国中5位)、そのうち永住しているブラジル人やその家族は11万4266人(同3位)。2010年の在日ブラジル人の労働力人口は9万930人で、そのうち製造業に従事している人の割合は66%。在日ブラジル人家庭は両親の不安定な勤務環境により放任状態となり、日本の生活に馴染めない子どもたちがいる。
 私が民間で働いていた頃にブラジル人の女性Aさんが派遣社員で入社してきた。Aさんは3歳の時に両親と年の離れた姉の4人家族でブラジルから日本(広島)に移住してきた。両親はポルトガル語しか話せないが、家族のなかでも彼女は移住してきた年齢が若かったこともあり、保育所や日本人小学校に通うなかで、日本語もできるようになった。年の離れた姉は日本に馴染めず20歳すぎに一人でブラジルに帰ったそうだ。
 以前、彼女の派遣期間が終わる時に英語もポルトガル語も日本語も堪能な彼女に「それを生かした職業についたらいいんじゃない?」と言ったことがあった。彼女から出たのは、「私、通訳的な事は嫌なんです。小学生になるとわけもわからず両親と行政の窓口や地域などとの通訳をさせられ、散々嫌な思いをさせられた」とのことだった。文化や言語の違いに起因する地域のトラブル(ゴミの出し方、騒音、駐車場の利用方法等)や行政の窓口等で嫌な思いの通訳を彼女は子どものころからしていたのだろう。
 彼女が日本人男性と結婚する際も、初対面の相手の両親からの「あなた、どこか病気持ってない?」という第一声から始まって、その後も、夫からのDV、子どもが病気で義両親に預けるときも子どもだけは家の中に入れて彼女は家の中に入れないことや、子どもと夫だけが義両親の家に遊び行く等々のことがあったと言う。
 「えっ、なんでそんな差別的な扱いを受けるの!やめとき!」―。仕事仲間が口を揃えて言っていたが、それでも彼女は耐えた。しかし、のちに子どもが小学校に入る前に離婚した。何故すぐに離婚しないのか全然わからなかったのだが、よく考えたら、私の想像以上に彼女は小さいころからブラジル人であるがために差別社会からの阻害を肌身で受けていて、だからそれらが普通だと思ってはなかったけれど彼女は耐えたのだと思う。
 日本では、日本に暮らす外国人をあくまでも労働力としてしかみていない。その範囲内での外国人の受け入れもいいけど、それを超えた権利は与えなくてもいいという感覚が考え方の根底にあるのではと思う。外国人を単なる労働力として都合のいいように使う日本。税金は取るが、選挙権はなしという日本。だから「外国籍者を生活保護から排除しろ、日本から出て行け」といった言論がまかりとおるわけである。政府はそうした風潮を利用して、外国人を都合のよい扱い方をする。
 そのことを象徴するのが改正入管法で、明らかな「人権軽視」だといえる。色々な差別がこの日本社会に存在する。「人として当たり前の生きていく権利」を保障することの基本を柱にしてこれからも正しい視点を見失なわないようにしたい。
(尼崎・HM)