新社会兵庫ナウ

水脈(2020年5月19日号)

2020/05/26
 同じ景色を同じ季節に繰り返し見てきたのに、今年の空、木々の色、水の光はハッとするほど美しい。緊急事態宣言が出されて数日後、花冷えを呼んだ風に桜の吹雪が舞っていた。今、街路樹も遠くの山も優しい淡い緑が輝いている▼人間社会がコロナウイルスにより突然フリーズを起こしたようになっても、自然の営みは変わらず進んでいる。人間がもっと生産性を向上させようと効率を追求している間は気付かなかった景色が立ち止まった人の心を癒している▼ウイルスの爆発的感染を抑えるためには、今はとにかく人と人との接触を極力避けるしかないのだからそうするしかないが、それを実行するための手立てがない、足らない、遅いことによって生活できなくなっている人が日ごとに増えるのはウイルスの所為などではなく、人間の、政治の所為である▼経済優先、生産効率向上が豊かさであると社会全体が動いてきたが、日本では2つの大震災や原発事故を経てもなお「豊かさとは何か」を問い返すことなく、生きることを支える医療、福祉、教育などの分野も経済効率の尺度が大手を振ってきた。コロナウイルスが見せた社会の脆弱さをコロナ禍の後、本質的に問うのも人間である。