新社会兵庫ナウ

私の主張 (2023年10月25日号)
今から来年早々がヤマ場
《王子公園の未来》の行方

2023/10/25
■はじめに
 神戸市が市民の憩いの場、灘区の王子公園に大学を誘致し再整備するという方針をめぐる神戸市と私たち市民の攻防については、これまでにも本紙で報じられてきた。ここに来て、事態は急速に動き出し、来年早々にはヤマ場を迎える。
 以下、これまでの経過と今後の課題を記す。
■到達点
 2021年1月に久元喜造市長が「王子公園の一角3・5㌶を大学誘致の場とする」と公表して以来、昨年12月に大学公募、今年2月に関西学院が応募し、6月に優先交渉権者に。それらに先立ち、神戸市は、現在の陸上競技場を公園北側に移築、跡地を大学に100億円で売却、プールや相撲場、テニスコート、サブグラウンドを廃止・縮小し、園内の豊富な樹木の伐採などを含む「基本方針」を決めた。もちろん市民はこれらの強引な進め方に対して、パブリックコメント、陳情、署名行動などさまざまな手段を講じて異を唱え、疑問を呈してきた。
 私たちは「王子公園・市民ミーティング」実行委員会という市民団体を立ち上げ、近隣住民や心ある市民約80人余で、神戸市の計画発表以来運動を続けている。
 今年の夏には、関西学院に向けて「誘致への応募を取り下げて」という署名運動を取り組み1万2367筆を集め、大学に提出。さらに猛暑の中、王子プールを訪れる親子連れなどから「プールをなくさないで」という208通の市長への手紙が寄せられ、子どもの手で市に提出するアクションとなった。
■教訓
 この運動は、市長が最初に計画を公表して2年半が経つ。正直に言うと、ここまで運動が続くとは予期していなかった。かくも長期に、市と市民の拮抗した状態が続いているのはなぜか。
 一つは、市がここまで頑なな態度を延々と崩さなかったこと、そしてもう一つは、市民の側、とくに(自慢になるのを恐れずに言えば)私たちの実行委員会の人たちが市の高い壁にくじけずにしっかりと所期の意志を曲げずに堅持してきていること。それが闘いの長期化の遠景を成す。
 私たちは運動を進めるにあたり、「なぜ再整備に反対するのか」をくり返し議論してきた。
 大きくまとめると、①困るということ、②理不尽だということ、③自分たちが主人公だということ、に収斂される。①は、さまざまな施設が廃止されると困る、スタジアムの移築等により騒音・光害・車両通行増による交通不安増大などだ。②は、SDGsと言いながら樹木伐採の断行や、人口流出をそのままに大学誘致が人口増・地域の活性化を生むというエビデンス無き超短絡思考などを指す。③は、そもそも市民の財産(コモン)を市や市長が独断で処分していいはずがないという、住民自治の精神としての異議申し立てである。
 とくに③は私たちの運動体の真骨頂だ。『王子公園の未来はみんなで決める』というのが私たちのスローガンである。この言葉のなかには、たんに市の計画に反対するのみならず、私たち自身が私たちの公園をこれからどのようにデザインするのか、主体的に考えようという意図を包含している。
■これから
 神戸市は今年9月、「基本方針」を前提とした「基本計画(素案)」(以下「素案」)を広報紙KOBEに折り込み全市配付した。それによると、10月末まで素案への意見募集をし、来年2月に都市計画審議会を開き、計画決定へと進む。本来、都市公園法では公園敷地内に大学キャンパスを配置できない。それをクリアするため大学誘致エリアを公園から外すための審議会だ。当面はそこが大きな攻防点となろう。
 とくに、市民のなかに「王子公園のことはもう決まっている」という空気があるが、それを払拭して世論喚起することが急務だ。年末に向けて、市内でのパレードや宣伝活動を企画実施したい。
 最近、東京・明治神宮外苑の再開発が大きな話題になっているのはご存じだろう。故・坂本龍一氏の手紙に端を発して、村上春樹、加藤登紀子、そしてサザンオールスターズなど著名人が相次いで開発反対の声や懸念を表明している。その運動の中心人物であるロッシェル・カップさんも、私たちの運動に強い関心を寄せてくれ、8月27日の市民集会にはメッセージを寄せてくれた。来年の都市計画審議会の前には、カップさんを神戸に招きエール交換する企画も進行中だ。
 これはたんに明治神宮外苑の運動にあやかろうというだけではない。公園をめぐって新自由主義と市民の攻防が全国で起こっており、その連携を図るための第一歩としたいと思う。
金丸正樹(「王子公園・市民ミーティング」実行委員会事務局長)