- 世論の多数は改憲を求めていない
改憲策動に市民と野党の共同強化を -
大阪労働学校・アソシエ講師/憲法・政治学 鈴田 渉2018年の新たな年を迎えた。秋には自民党総裁選もあり、安倍首相にとっても節目の年となる。また、日本国憲法をめぐって改憲派と護憲派が激しい攻防戦を繰り広げる年となろう。いずれにしても安倍首相の総裁3選の結果がすべてだ。
■警戒すべき「明治150年」キャンペーン
憲法問題を語る前に気になったことがある。それは、安倍首相の「年頭所感」の内容だ。要約すると、「明治150年」、列強諸国による植民地支配という国難に対し、先人達が明治新政府を樹立させた。身分制を廃止し、また、従来の制度や慣習から解き放ち、独立を守り抜き、今日の日本を築いた。こうしたことになぞらえて現在の「少子高齢化」を国難と位置づけ、「1億総活躍社会」の「国創り」の実行のための1年にしたいとの決意表明である。今後、全国各地で「明治150年」キャンペーンが展開されることだろう。
所感の決定的問題点は、日本の近代化と表裏一体をなす戦争についての言及が全くないことだ。アジア諸国への侵略支配、さきの大戦では300万人もの死者を生んだ「不都合な真実」を隠蔽している。こうした「事実」に基づいて日本国憲法へとつながっている。改憲派は「押しつけ憲法」とその出自を問題にするが、前述のことからすると本質的ではない。戦争がなければ、これら多くの戦没者は、「普通に一生を終えた」に違いないだろう。戦争が尊い命を奪った、この事実に目を背けてはならない。
■まとまってはいない自民党内の改憲論議
それでは、改憲勢力3分の2以上という国会状況の中、これからの憲法情勢への展望と、私たちはどのような構えで臨んでいくべきかについて触れていきたい。
中心となるのは、昨年の総選挙での改憲4項目公約(@自衛隊明記、A教育無償化、充実化、B緊急事態条項、C参院合区解消)を掲げた自民党の動きであろう。これに教育無償化を掲げる日本維新の会、地方自治項目や自衛隊の明記等を掲げた希望の党、そして連立政権の一角をなす公明党の対応ということになろう。昨年末、自民党改憲推進本部は改憲4項目についての「論点取りまとめ」を決定した。内容は以下の通りである。@自衛隊明記については、首相主張の「1項・2項維持、自衛隊明記」と、石破元幹事長らが強く主張した『自民党改憲草案』重視、すなわち「2項削除を行い自衛隊を2項で明記」の両論併記。A教育無償化は国政上の努力義務規定。B緊急事態における国会議員の任期延長等に限定する案と、政府への権限集中と市民の諸権利制限(私権制限)の両論併記。C各都道府県から少なくとも1名選出の改正により合区解消。
内容的にはおおよそ「論点整理」にも値しない。自衛隊明記についても詰められていない。また、緊急事態条項も前者の案は当たりさわりのない案、後者は憲法学者が批判する緊急事態にかこつけた「独裁」条項。教育無償化も努力義務規定で改憲する必要性すらない。明確に国の責任で無償化をと主張していた維新の会は猛反発している。C参院合区解消だけは党内的にはまとまったが、公明党や共産党は、故・西岡元参院議長が提案した全国を数ブロックに分け比例代表制をベースにした改革案を昨年末の参院改革協議会でも主張している。自民党は全国知事会の「合区解消意見書」をテコに、最悪でも「合区解消」の改憲国民投票(「お試し改憲」)を実施したいところだろう。いずれにしても改憲4項目ですら容易に改憲国民投票に持ち込めない。
■予想される改憲発議・国民投票の時機は?
次に、改憲発議・国民投票の時期的問題である。総裁3選がなくなれば急速に改憲機運は萎むのは間違いないが、「安倍一強」の自民党情勢からすると3選され、さらに3年の任期延長、総仕上げが濃厚ではないか(この点でいうと、森友・加計問題等を院内では立憲野党が厳しく追及し、また院外では安倍政治の継続を許さない闘いの必要があろう)。「スケジュールありき」ではないといっていた首相が、年頭記者会見では「年内改憲案提示」に意欲を示した。その意味では安倍発言に右往左往せず改憲阻止に向けて私たちは臨んでいく必要があろう。総裁3選となれば2021年9月、任期満了だ。来年は新天皇即位で国内が慶祝ムードとなり、国論を二分するようなことは望ましくないという世論、統一地方選、参院選があり、可能性としては少ない。そういうことから逆算すると、今年の通常国会発議、総裁選前後の国民投票で(この案は強引な国会運営の必要性があり、安倍退陣と引き換えの可能性が大、9条明文改憲正面突破も濃厚)、次はオリンピック開催の2020年通常国会の発議を照準にしてくるのではないか。世論をオリンピックに誘導し改憲問題から目を逸らす効果を狙ってくる。(この案の最大の課題は前年の参院選で改憲勢力3分の2を維持するという難関がある)。
このように改憲対象や政治日程面から安倍首相の思惑通りに事は進まない状況である。だからこそ、昨年の「論点整理」発表後、自民党の萩生田幹事長代行が「衆院解散権の制約」なども憲法審査会で議論していきたい旨の発言をしている(立憲民主党への秋波だろう)。立憲民主党の枝野代表がこの点の憲法論議を積極的に発言している。枝野代表は「当面の考え方」として「9条改憲反対」、「立憲主義に反する改憲案」には徹底して反対し、そのうえで改憲国民投票法の問題点(最低投票率・無尽蔵にお金をかけて運動できる、使い放題の宣伝合戦の是非等)を国会論戦に持ち込む考えを示した。
■改憲派の動きへの運動的対決を
それでは世論は改憲を求めているのか。昨年12月の各種調査では7割程度が改憲反対や改憲を急ぐべきではないとの態度を示している。改憲問題は国政上の優先課題ではない。安倍首相や日本会議といった勢力だけが一気呵成に、である。
さきの総選挙直後、日本会議系列の団体「美しい日本の憲法をつくる会」(共同代表・桜井よしこ等)が都内で700人規模(自民、維新の国会議員10人も参加)の集会を開いている。この集会で桜井は「5分の4の改憲派議員が誕生した。史上初である。自衛隊を国軍として位置付けられるかどうかだ。このチャンスを逃したらこの後は難しくなるかもしれない。安倍政権のもとで必ず憲法改正を実現しなくてはならない」旨の発言をしている。さらに、翌月の日本会議・日本会議国会議員懇談会創立20周年記念集会が都内で開催され、「国民投票では地方議員が先頭に立って進めていく。289の小選挙区に『憲法改正』推進、国民投票対策のための組織を作る。(中略)相手はまさしく『九条の会』や護憲派だがそんなものには負けない。(中略)、草の根の改憲組織の結成を急ぐ」(松田良昭日本会議地方議員連盟会長・自民党神奈川県連副会長)発言が飛び出している。改憲勢力の露骨なこうした態度に私たちも対抗していかなければならない。その意味で市民と野党の共同を一層強化・発展させていくことが必要だ。