「新社会兵庫」 5月21日号
5.3憲法集会 憲法の危機を憂う400人で満席
 憲法施行から66年、ときの首相が国会で憲法「改正」を公言するまでにいたった。「戦争をしない“ふつうのくに”を」をスローガンに憲法記念日の5月3日、ひょうご憲法集会実行委員会主催の兵庫県集会が開かれた。神戸市勤労会館は、かつてない憲法の危機を憂う400人でいっぱいとなった。
 「安倍政権下の憲法情勢」と題して、山口大学の纐纈厚副学長が講演を行った。
 「戦後も軍隊の思想は途絶えていない。軍関係者は戦後政治に関わり、再軍備を狙ってきた」。纐纈さんは三矢事件などを例に説明。改憲は一貫した戦略であることを強調した。
 周辺事態法(99年)、武力攻撃事態法(03年)、国民保護法(04年)が成立し、日本は戦争できる法整備をすませた。武装面では、専守防衛といいながら強襲艦やイージス艦、空母などを保有している。纐纈さんは「タカ派勢力が不満なのは、なぜ自衛隊が憲法上『軍隊』と評価されないのかということ」、と改憲勢力の心情に触れた。
 ドイツはナチス関係者を政治から追放し、国旗、国歌も変えた。そして戦後政治を担う政治家にも歴史認識が問われる。「戦争責任」について触れた纐纈さんは、「改憲勢力を選んだ国民の責任も問われる」と指摘し、国際社会における日本の立ち位置にも言及した。
 「軍拡の連鎖を断ち切ることが課題」とした纐纈さんは、人々を軍国主義に向かわせる閉塞した社会を問題にする必要があると強調。「自民党『草案』が憲法になると、日本は憲法を持たない国になる。『守る』のではなく、人権や自由を『取り戻す』たたかいが重要」と護憲運動を叱咤激励した。
 集会では、森哲二事務局長が「憲法とは何か?変わるとどうなるのか?身近な場で議論をはじめよう」と提起。改憲阻止に向けた取り組みを確認した。

写真:纐纈厚・山口大学副学長の熱い講演に聞き入る参加者=5月3日、神戸市内

一人ひとりが行動し憲法を守り抜こう!
文化人ら24人が呼びかけ
 5月3日の憲法記念日にあわせ、浦部法穂さん(神戸大学名誉教授)、小山乃里子さん(ラジオパーソナリティー)をはじめ県内の学者・文化人・宗教者ら24人が賛同・呼びかけ人となり「兵庫憲法アピール・2013」が発表された。
 アピールでは、安倍晋三首相が掲げる憲法96条改正を「権力者が都合に合わせて簡単に変えることができるようにする」ものと批判するとともに、憲法9条は「歴史から学んだ英知」だとし、「小さくても無数の力や一人ひとりの行動が、憲法を守り抜く力になる」と力強く訴えている。
 このアピールは、改憲派の動きが活発となる中、06年11月3日に7500人が参加した「はばたけ!九条の心」11・3集会の呼びかけ団体である「9条の心実行委員会」「憲法・兵庫会議」など県内護憲5団体を中心に懇談会を月1回開催するなかで作り上げられた。改めて、様々な立場の違いを超え、憲法を守り活かしていくことが確認された。
 今後、立場や組織の枠を超え、各集会などを通じてアピールを広げ、憲法96条改悪をはじめとする危機的な憲法情勢に多くの市民とともに取り組んでいくことが求められる。
兵庫憲法アピール(2013)
 私たちは、日本国憲法、世界のどの国とも戦争をしないことを誓った憲法9条を守るために皆さんに訴えます。
 戦後60数年間、憲法9条は朝鮮戦争やベトナム戦争、米ソの冷戦時代という 時代の荒波に耐え、どこの国とも戦争はしないという平和の灯火(ともしび)として光を失わず輝いてきました。自衛隊は海外における武力行使を禁じられ、今日までただの一人の命も奪うことはありませんでした。ところが最近、中国との尖閣諸島をめぐる領土問題や北朝鮮の核実験やロケット(ミサイル)発射問題が報道されるたびに「憲法9条では解決できない」「9条を変えて軍隊(国防軍)を持とう」「集団的自衛権行使を容認する」などという動きが日増しに強まっています。
 7年前、安倍首相は「時代にそぐわない条文がある、自分たちの手で新しい憲法を書く」と憲法9条を改定することに強い意欲を表明していましたが、2度目の首相の座についた今回は、国会発議に衆参両院の2/3の賛成が必要としている「憲法96条を改正して憲法を国民の手に取り戻そう」と主張しています。7年前との違いは、自民党のみでなく日本維新の会やみんなの党など他の多くの政党も憲法9条や96条の改定を訴え、この夏の参議院選挙の結果によっては憲法96条の改憲発議が現実のものになりかねない厳しい情勢にあります。
 私たちは憲法96条や9条を変えることには反対し、次のことを訴えます。
 ・すべての地域、職場、学園で、人とひとのつながりを生かし、憲法の心とも言うべき憲法前文や9条が、私たちの暮らしと深く結びついていることを学ぶ場を無数につくりましょう。
 ・「戦争はしない」、「何があっても武力では解決しない」という日本国憲法の基本的な考えを、心をつくして話し合い、全ての人に世界に伝えましょう。  ・「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」は憲法改正手続でも変えられない極めて重要な原理であり、96条の改定は権力者が憲法を自分達の都合のいいものに簡単に変えることができるようにすることが目的であることを訴えましょう。
 憲法9条は、沖縄や広島、長崎などで失われたかけがえのない多くの命、何よりもアジアで2000万もの命を奪うという歴史から学んだ英知であり、かけがえのない命への思いから私たちが希求したものです。小さくても無数の力やひとりひとりの行動が、憲法9条を守り抜く力になると信じます。
2013年5月     【賛同者・呼びかけ人】
香山リカさん招き学習会 宝塚
 宝塚市職労は4月27日、宝塚市立西公民館で「人間らしく働くために素直になろう」という公開学習会を開いた。立教大学教授・精神科医の香山リカさんは、職場でのメンタル疾患を防ぐための、脳を休ませることの重要性を説いた。学習会では同市職労組合員など130人が講師の説得力ある話に耳を傾けた。
 主催者を代表して同市職労の酒井正美委員長は「今年1月に被災地支援のために岩手県大槌町に派遣された職員が心身の疲労で亡くなった。この悲しい出来事を繰り返さないことが必要である。被災自治体、派遣自治体のメンタル疾患をなくそう」とあいさつした。
 香山リカさんは、災害支援者の特徴として支援活動が評価されにくく、時には非難さえされることを挙げた。「支援はやって当り前だ」「公務員は何をやっているのか」「もっと働け。税金の無駄遣いだ」ともバッシングされる。このような災害支援者を支援する活動が強く求められていると強調した。
 職場のメンタル問題については、「増え続ける労災申請と認定のなかで、うつ病は脳内神経伝達物質の異常が原因であるという説が有力であり、うつ病を防ぐためには脳を休ませることが大切である。電車内でもスマホで音楽を聴く人を見かけるが、人間活動にはボッーとしている『スキマ』をつくることは脳を休める上で必要である。」と訴えた。
 講師は最後に、うつ病になりにくい職場、うつ病になった職員も復職できる職場は誰にとっても「働きやすい職場」であると労働組合の取り組み目標も示した。
写真:西山和宏・労働安全衛生センター事務局長の講演に聞き入る参加者=4月21日、神戸市兵庫区
憲法を生かす会・兵庫
 4月21日、兵庫勤労市民センターで、「憲法を生かす会・兵庫」主催の「アスベスト問題を考える」と題する講座が開かれた。節目である第20回学習会となった今回、約40人が参加した。
 講師の西山和宏・NPOひょうご労働安全衛生センター事務局長は、「アスベストは『危険だが、安価』」「1974年と1988年にアスベスト輸入のピークがあり、2005年になって、尼崎のクボタ従業員及び周辺住民の、中皮腫(癌の一種)の発症が顕在化した」「今は年間1200人が中皮腫で亡くなっているが、今後飛躍的に被害は拡大する」「旧国鉄職員の労働災害が突出している」など、数字や統計を駆使して、アスベスト問題の経過や被害状況などを解説。また、「発症してから健康管理手帳を交付するなどは行政の怠慢であり、大地震を経験した全ての人に無償の健康診察を」「保障額でも正規社員と非正規では雲泥の差があり、差別構造が存在する」…など、2次被害の現状なども分かり易く説明し、参加者は熱心に聞き入った。
 質疑応答では6人から発言があったほか、会場のアンケートには「大変参考になった。隣の人にも広げたい」「アスベストの怖さが分かった」「福島原発と根っこは同じだ」など書かれ、大変好評であった。
 阪神・淡路大震災から18年が経過したが、今後は「減災」に向け、アスベストの規制強化を求めたい。
(誠)
18回目の被災地メーデー
 第18回目を迎える被災地メーデーが、晴天に恵まれた4月28日(日)、神戸市長田区の若松公園で開催された。
 昨年に引き続き、地域との広いつながりを願って日曜日開催が採用されているが、この日も職場や地域から、家族連れなど多くの人々が訪れ、ステージや屋台を楽しんで終日にぎわった。
 冒頭、詩人・玉川侑香さんの詩の朗読と震災の犠牲者への黙とうで第一部は開幕。宇野克己・実行委員長をはじめ来賓のあいさつの後、今年不当な賃下げに対し裁判闘争で立ち上がった日本郵便非正規ユニオンの仲間らによる小劇が演じられた。劇では原告の非正規職員本人が「仲間の支えがあってやってこれた。すべての非正規の仲間、すべての労働者の闘いだと思って頑張りたい」とアピールした。
 第二部の「熱唱&爆笑inながた」では、メーデーおなじみの岡本光彰さん、グルーポマルテス、はるまきちまき、加納浩美&マブイ六甲の仲間たち、ちんどん通信社による歌と音楽の演奏や、西神戸朝鮮初級学校の子どもたちの舞踊、おかひらばやしによる日本の伝統曲芸、旭堂南陵さんの講談なども披露された。
写真:青空のもと、小劇を演じる日本郵便非正規ユニオンの仲間たち=4月28日、神戸市長田区
 2013年4月26日、尼崎労働センターにて、8人の韓国郵政労働者訪日団を迎えた「日韓郵政非正規労働者交流会」が開催され、約60人が参加した。
 日韓それぞれの代表あいさつの後、日韓の郵政労働者の現状を報告しあった。
 日本側からは、尼崎郵便局の山本さんが「非正規労働者の雇用と労働条件・正社員との格差」と題して、日本の郵便局における正規社員と非正規社員の違い(格差)を雇用体系・賃金制度・各種休暇の有無などを挙げてわかりやすく報告した。続いて、長田郵便局の福本さんが「郵政非正規労働者が抱える問題」と題して、自らの体験をもとに郵政の非正規労働者の現実と『日本郵便非正規ユニオン』を結成した経緯、現在行っている自らの裁判闘争についてわかりやすく報告した。
 韓国側からは、逓信民主労働者会のキム・ジェチョンさんが「韓国の郵政事業の状況」と題して、韓国の郵政労働者も日本の郵政労働者も状況はほぼ同じだということや、韓国でも郵便事業が赤字になったため非正規化が進んでいること、非正規労働者の組合の活動や要求内容などについて報告した。
 その後、質疑応答・感想で様々な意見交流を行った。特に印象的だったのは、韓国の方に「韓国の郵政は日本の郵政の後を追って(真似をして)、民営化したがっている。非正規化や評価制度も日本の郵政の後を追って(真似をして)いくかもしれない。人を大切にしないで低賃金で働かせるような非正規化や評価制度は絶対に韓国に輸出しないでほしい。だから、日本の労働組合はもっと頑張ってほしい。」といった言葉だった。
 その後、場所を居酒屋に移し、夜遅くまで楽しく交流と意見交換を続けた。
(N)
写真:約60人が参加、熱心な交流が行われた=4月26日、尼崎市
 JR尼崎事故から8年、ノーモア尼崎事故、命と安全を考える集会が4月20日、尼崎の小田公民館で開催され、約90人が参加した。
 今年の集会は、「尼崎事故の教訓を風化させない立場から、JALの165人不当解雇や郵政の非正規労働者の実態など、『生命と安全を守る』視点からの交流の場として企画」(基調報告)された。JAL不当解雇撤回裁判原告からは、「首切り自由は許さない決意でたたかっており、これは空の安全を守るたたかいでもある」と支援を訴えた。全日建トラック支部からは、95年規制緩和以降、トラック業者が急増、事故も年4万件近く発生、長時間労働も相まって年800人近くが死亡している実態が報告された。
 たった1回の遅刻で過酷な賃下げ攻撃を受け、裁判闘争に入った日本郵便非正規ユニオンの福本さんは、「裁判を通じて非正規の権利と安全を守るためにたたかいぬく」と決意を語った。JR保線職場からは、外注がすすみ技術の継承問題が起きていることや増え続ける触車事故の実情が報告された。
 集会後、参加者は事故現場までデモ行進し、献花を行った。
写真:危険にさらされる労働者の実態が明らかにされた=4月20日、尼崎市
 3月24日に大阪市内で開かれた「2013緊急ゼミナールin近畿」で奨学金問題について問題提起した大内裕和さんの講演の要旨です。 【見出し・文責=編集部】

「有利子奨学金」で年収の数倍の借金を背負い就職する若者が急増
1 奨学金問題への関心
 きっかけは、2010年私の講演会に参加した50代教師の「最近の若い先生は貧しい。正規の先生なのに、奨学金を返しているから貧しい。」という発言だった。同年、愛媛大学の講義で奨学金問題を取り上げると、学生が大きな反応を示し、数回の講義の後、学生たちは「愛媛大学 学費と奨学金を考える会」を結成した。2011年11月23日、東京で「教育の機会均等を作る『奨学金』制度の実現を目指すシンポジウム」に参加して以降、この問題は極めて高い関心を呼んでいる。
写真:緊急ゼミナールin近畿の様子=3月24日、大阪市内
2 奨学金制度の現在
 奨学金制度の8割以上は日本学生支援機構(旧日本育英会)が占める。主な奨学金は2つ。 [第一種奨学金](無利息。特に優れた学生および生徒で、経済的理由により著しく修学困難な者に貸与)と[第二種奨学金](利息付き。利率固定方式または利率見直し方式のいずれかを、申し込み時に選択。いずれの方式も利率は年3.0%が上限。第一種よりゆるやかな基準によって選考された者に貸与)である。貸与月額は[第一種]で、国公立で上限5万千円・私立で上限6万四千円。[第二種]で、3、5、8、10、12万円のいずれかを選択。大学院は15万、法科大学院は22万円まである(2011年度入学者の貸与月額)。
 第二種(利息付き)が導入されたのは、中曽根政権時代の1984年、日本育英会法全面改正による。以降、政府は大学の学費を引き上げる一方、1999年に財政投融資と財政投融資機関債の資金で運用する有利子貸与制度を作り、一般財源の無利子枠は拡大せず、有利子枠のみその後の10年間で約10倍に拡大させた。その結果、1998年度には、無利子奨学金39万人・有利子奨学金11万人(計50万人)だったのに対して、2012年度には、同38万人・同96万人(計134万人)と、有利子奨学金を受ける者は激増した。無利子貸与の希望者は予約採用の段階で近年、毎年約2万人ずつ増加しているが、採用枠が少ないために、2009年には78%が不採用となっている。結果、彼らの学生生活はアルバイト漬けとなる。
3 奨学金返済の困難
 返し方はどのようになるか?第一種は、返還額が毎月1万5千円以内に収まるように設定されている。国立大学で自宅通学の場合毎月4万5千円の貸与だが、大学卒業後から14年かけ毎月1万2,857円返還する。現役で払い始め、37歳で終了となるが、非正規の場合は大変厳しいものとなる。第二種で毎月10万円借りた場合は、貸与総額480万円で利率3.0%で計算すると、返還総額は6,459,510 円。月賦返還額は26,914 円となり、返還年数20年で、すぐに払い始めて43歳で終了。現在学生の約半数が奨学金を借りているので、結婚相手も奨学金を借りているということは十分に起こり得ることだ。また、ひどいことに払い遅れると、年利10%の延滞金がつき、延滞金発生後の返済では、お金はまず延滞金の支払いに充当され、次いで利息、そして最後に元本に充当されるので、元本の10%以上のお金が出せなければ半永久的に延滞金を支払い続けることになる。
4 上昇し続ける大学学費と経済的困難
 「私立に行くから高いので、安い国立に行けばいいのでは?」と言う声がある。しかし、国立といえどももはや安くない。授業料は53万5千8百円(2010年入学)、40年前と比べ、約50倍。さらに、私立の授業料と比較しても、40年前約8倍の差だったものが、現在では2倍を切っている。日本型雇用(正規雇用・年功序列)が残されていた90年代前半までは、子供が大学に行く世代にとって、無理をすれば“何とか”学費は払えていた。しかし、1998年以降、世帯年収は継続的に減少し、10年後には百万円以上減の427万円となった。世帯年収に占める大学学費の比重は反比例して上昇し、“何とか” 払える経済的状況ではなくなってきたのだ。全大学生に占める奨学金受給者の割合は、1998年の約2割から2010年に5割(学部昼間50.7%)を突破。これは貧困化の問題であり、いわゆる「中流」崩壊の問題である。
5 成長なき時代の到来と深まる「格差と貧困」
 「貧困」の問題は70年代以降の日本の資本主義経済構造と深くかかわっている。石油ショック後、日本経済は企業社会の強化と輸出産業で中成長→日米貿易摩擦の解消のため、1985年、プラザ合意を結ぶ→円高ドル安を誘導し、日本の製品が売れなくなる→日本企業の多国籍化・グローバル化が進行→日本経済は空洞化。また、人件費の安い国での現地生産は、国内被雇用者への賃下げ圧力となる→1995年、日経連は『新時代の「日本的経営」』を提言。労働力を三分類(A「長期蓄積能力活用型グループ/月給制か年俸制、昇給制度、全体の1割」、B「高度専門能力活用型グループ/年俸制昇給なし、全体の2〜3割」、C「雇用柔軟型グループ/時間給制昇給なし、6割以上」)に差別化し、企業はこれに呼応→1999年、派遣業務の原則自由化→2004年、派遣業務を製造業へも解禁、日本の雇用は壊滅的となる。とくに、若年労働問題は深刻化している。2009年における15〜34歳の非正規雇用率は男性42.7%、女性51.4%となり、就学援助対象者は1999年〜2012年にかけて、78万4千人から、156万人に。子供の貧困率は、1980年代に10%だったのが、2009年には14.9%となり、「貧困」が社会的な層となって登場している。
 2008年末?09年初頭の「年越し」派遣村はこれらすべての延長線上にある。金融資産1億円以上の204万人に対し、年収3百万以下のワーキングプアや生活保護水準以下の層は2040万人(2006年 野村ホールディングHPより)に見られるように、大きな格差も生み出した。
6 高卒就職の困難
 新規高卒者に対する求人数は、1992年3月末の167万6千件をピークにその後、減少し続け、2010年3月末では19万8千件(ピーク時から87%ダウン)である。高卒就職の激減は、就職のための大学進学を強いられることとなった。高い学費を払ってまで大学に行く必要がここにある。
7 大学卒業後の就職難と奨学金返済の困難
 だが、大学生の就職率は2009年(四大卒就職率)77.9%、また1997年〜2002年、最初の仕事に就いた人のうち32.6%がパート・アルバイトであり、その後の5年間では42.8%である。このように不安定な就業を背景にして、奨学金返済は困難を極めている。日本学生支援機構が明らかにしている奨学金滞納者は33万人(2010年)。3ヶ月以上の滞納額2660億円。返還滞納者の個人情報機関への登録(いわゆるブラックリスト化)が1万人を超える(2012年)。奨学金の返済が遅れている要返還者と未返還者を足した人数は、2004年の198万人に対して、2011年が334万人と7年間で130万人以上増えている。裁判所を使った「支払督促」を申し立てられる奨学金滞納者も急増している。2004年にはわずか200件だった支払督促の申立件数が、2011年には1万件と、この7年間で50倍に拡大している。
8 奨学金の現在と今後の課題
 ここまで述べてきたように、@適格者が無利子奨学金を得ていない。A将来の返済不安から奨学金を借りることを抑制している。B卒業後の返還の困難さ→大学卒業後の生活や人生を左右するなど、奨学金が奨学金としての機能を果たしていないことが問題である。本来の奨学金の役割を果たすためにも、求められる課題は、@一定年収以下の人への返済猶予・免除、特に猶予5年の上限を撤廃し、本人年収基準とすること。A有利子奨学金を無利子奨学金に。B給付型奨学金の導入、である。

※近畿でも相談窓口が開設されています。
相談料無料、秘密厳守
『奨学金問題に取り組む近畿の会』
【電話】090‐3995‐0666(前田純一)


【大内裕和さんのプロフィール】
 1967年神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。中京大学国際教養学部教授。専攻は教育社会学・歴史社会学。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。/主な著書:『教育基本法改正論批判』(白澤社)、編著『愛国心と教育』(日本図書センター)、『民主党は日本の教育をどう変える』(岩波書店)など
I. 日本経済は衰退しているのか?
 「貧困問題」が注目されだして久しい。バブル経済の破たん以降、「失われた10年、20年」といわれ、あたかも日本経済が衰退しており、そのために「賃金低下」が続き、「貧困問題」が浮上しているかのような錯覚に陥ってはいないだろうか?
 日本経済は、1955年以降、ほぼ一貫して上昇し、下がったのは1974年のオイルショック時、98年の橋本政権の経済失策時、そして2008〜9年のリーマンショック時だけである。90年代後半以降は他の主要国とほとんど同様に推移しているのであって、日本が特に経済的困難に直面しているのではない。
 だが、非正規労働者が3人に1人を超え、正規労働者の賃金も下がり続けている。社会の富はいったいどこに行ったのだ。その行方を探し出さねばならない。
II. 富は誰の手に集積されているのか?
@ 企業の内部留保金
 企業の内部留保金が注目されている。最近共同通信が、主要100社の内部留保金は99兆円だと報じた。内部留保は言わば中間貯蔵庫である。企業経営の安定確保のために、利益が減ったり、赤字に陥ったときの配当金や赤字補てんに充てられたり、設備投資に回されるものである。「中間貯蔵庫に貯めずに、労働者に配分せよ」という主張は当然なことだが、この内部留保だけに注目が集まり過ぎているようだ。
A 報酬を上げ続ける経営層
 実は企業の役員の収入は見えにくくなっている。財務省の法人企業統計調査によると、88年から2002までは全企業で600〜1000億円で推移していたものが、03年から急増し07年には5,225億円にまで達したが、それ以降は発表されなくなった。
 「プライスウォーターハウスクーパース」という調査会社によると、大企業67社の会長・副会長・社長・専務クラスは平均で4千万から7千万円。一般社員と桁違いの報酬を得ているのだ。
B 急速に増大している株主配当金
【図表@】は、88年から2011年までの全産業の純利益と配当金の推移である。80年代からバブル期を経て01年までは4兆円台だったものが、08年に16.2兆円に跳ね上がり、その後も12兆円前後で推移しているのだ。
III. 富の分配ルールが変えられていた!
@ なぜ、国の財政は赤字にあえぐのか?
 他方、日本の国家財政の収入は90年をピークに下がり続けている。【図表A】は、主要税目の税収の推移である。法人税は、企業の利益に課せられる部分が大きいので変動するものだが、バブル期を頂点に基本的に大きく減少している。所得税の下がり方は、地滑り的である。法人税・所得税が急速に引き下げられた結果、国の財政は赤字にあえぎ、富裕層には金がたまっていく富裕層優遇制度ができていたのである。
IV. 日本の富裕層
@ 隠される大富豪・富裕層の実態
 では、日本の富裕層はどれほどいるのだろうか? 「高額所得者の所得額公示制度(長者番付)」が廃止されて以来、その実態は見えにくくなった。
 ただし、アメリカの経済誌「フォーブス」は毎年3月に日本及び世界の大富豪(資産10億ドル以上)を発表している。【図表B】は2013年の日本の上位5人である。昨年までは、トップ40人の資産合計も分かったが、今回は掲載されていない。個人レベルでは浮き沈みはあるものの、総じて大富豪は増えているのだ。
A 調査会社の報告による富裕層の実態
 ではどれだけの数の富裕層(資産100万ドル以上)がいるのだろうか? 【図表C】はキャップジェミニ(スイス)のワールド・ウェルス・レポートによる日本の富裕層数の推移である。04年以降、08年以外は毎年増え続け11年には180万人に達している。別の調査機関であるクレディ・スイス(スイス)は、日本の富裕層は11年には360万人いて、今後5年間で540万人に増加すると予測しているのだ。
V. 世界の富裕層・大富豪
 では、世界の富裕層はどうか? 前述のワールド・ウェルス・レポート2011年版によると、世界全体の富裕層人口は8.3%増の1,090万人となっている。
 前期「フォーブス」の世界ランキングによると、世界一の大富豪はここ4年間はメキシコの通信王カルロス・スリムで、2010年には535億ドルだった資産が13年には730億ドル(約6.8兆円)にまで増加している。まるで、ブラックホールへ吸い込まれるかのように富が彼の下に集積しているのだ。
 肥え太っているのは、カルロス・スリムだけではない。世界中で、発展途上国も含めて、富裕層そして大富豪の数が増え続け、その資産も増えているのだ。
VI. もっと富裕層に注目を
 貧困の事実に目を向け、彼らの救済策を確立していくことは極めて重要な課題である。しかし、このようなひどい貧困実態となった原因は、富裕層、その頂点をなす大富豪が自らの富を増やすことにまい進して、国家財政の赤字に素知らぬ顔をし続けている事実があることを見逃してはならないだろう。
 彼らが、結託する思想こそが「新自由主義」に他ならないのである。彼らがどのように富を収奪しているのか、事実を白日の下に晒さねばならない。
佐野修吉
インフォメーション

■人間らしい生活ができる世の中に
〜憲法9条と25条について考えよう

  • 5月25日(土)午後1時から3時、西宮市勤労会館
  • 原和美さんの問題提起、新垣亀一さんの「沖縄戦を語る」、DVD上映など
  • 問い合わせ=090―4560―5020(奥山)

■フクシマ、オキナワ、憲法を考える市民の集い

  • 5月25日(土)午後2時、川西市アステホール
  • 高橋哲哉・東大教授の講演。ゲスト=井上美和子さん(福島から京都府綾部市に避難)、山城博治さん(沖縄平和運動センター事務局長)
  • 参加費500円
  • 問い合わせ=090―3613―7069(北上)

■日本軍「慰安婦」被害者証言キャンペーン2013inおおさか

  • 5月25日(土)午後1時、大阪天満橋ドーンセンターホール
  • 講演=ゆん吉見義明・中央大学教授、ユンミヒヤン・韓国挺身隊問題対策協議会共同代表
  • 資料代800円
  • 問い合わせ=080―6185―9995

■2013社会主義ゼミナールin近畿
今なぜ生活保護基準切り下げか?!

  • と き:5月26日(月)14:00〜16:30
  • ところ:山西福祉記念会館(大阪市北区神山町)
  • 講 師:尾藤廣喜さん(弁護士・生活保護問題全国対策会議代表幹事)
  • 資料代1,000円(参加は事前申込制 ホームページ
  • 問い合わせ=090―3995―0666

■第17回統一マダン

  • 6月2日(日)午前11時、神戸市長田区若松公園
  • ステージ=韓国・朝鮮の民族文化公演、屋台=朝鮮料理など各国料理、展示コーナー=6・15共同宣言関連資料など
  • 問い合わせ=090―5016―6352

■「ひまわり〜沖縄は忘れない、あの空を〜」上映会

  • 6月7日(金)午後3時と午後7時、丹波市ホップアップホール
  • 6月13日(木)午後3時と午後7時、篠山市民センター
  • 問い合わせ=0795―73―3869

■改憲派が斬る!96条改正に異議あり!

  • 6月8日(土)午後2時、神戸市勤労会館ホール
  • 小林節・慶応大学教授の講演ほか
  • 資料代500円
  • 主催=憲法・兵庫会議ほか

■兵庫県労働運動史研究会2013年度第1回例会

  • 6月15日(土)午後2時、神戸市勤労会館
  • 講演「日本の労働運動の問題点と可能性」、講師=熊沢誠・甲南大学名誉教授
  • 会費=500円
  • 問い合わせ=079―437―7842

■第9回移住労働者と連帯する全国フォーラム・神戸

  • 6月15日(土)午後1時〜16日(日)正午、甲南大学岡本キャンパス
  • シンポジュウム「私たちがつくる多民族・多文化共生社会」、分科会など
  • 参加費=一般2000円、学生1000円
  • 問い合わせ=078―851―2760