「新社会兵庫」 11月10日号
- デモで「国会解散!」と求めたことは幾度だったろう。ところが、「国会を開け」と叫ぶご時世になってしまった▼昨年の今頃を思い起こしてみよう。安倍首相が不意打ちの解散、総選挙を企んでいるというマスコミ報道がチラホラしていた。報道に接した多くは「まさかそんな」「何の必要があるの」「国費のムダ」という受け止めであった▼ところが、あいた口が塞がらないうちに解散、総選挙、政権党圧勝となってしまった▼民意は総選挙を否定していたのに、民意測定器であるはずの総選挙を、自らの権力基盤強化のために使ったのである。軍隊こそ動かさなかったが実質的にはクーデターであった▼さらに安保関連法国会では、常識超えの会期延長、強行採決だ。揚句の果てが、今回の「国会は開かない」である▼国権の最高機関である国会を弄ぶのも甚だしい。新内閣も国会でお披露目しなければならないが、隠す算段がついていないということか。TPPの秘密交渉の中身も即刻、国会に明らかにしてもらわなければならない。魅力は地に墜ちたが、新三本の矢も、大風呂敷だけに、国会で開いてみせるのが当然だろう▼劣化した政権にとって、今できることは、目、耳、口を塞いで逃げることだけなのか。
- TPP大筋合意
米追随の妥協の積み重ね/東アジアの安保問題と連動 -
政府は10月5日、環太平洋経済連携協定(TPP)に「大筋合意」したと発表した。20日にはその概要を公表し、その後も交渉結果を小出しに発表している。
全容は明らかでないが、市場開放分野で全品目の95%の関税を最終的に撤廃するという驚くべき内容になっている。農林水産分野では撤廃率は8割を超える。日本がこれまで結んできた自由貿易協定の自由化水準を大きく上回る内容だ。
農業分野では、自民党自ら賛成した国会決議で交渉の対象にしないことを求めた農産物5項目(コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源)でも、586品目のうち174品目(30%)で関税撤廃するほか、新たにコメの無税輸入枠(最終的に7万8千d)が設けられている。これは国会決議に反するものであり、安倍政権の公約違反でもある。麦や甘味資源もTPP輸入枠を新設、牛肉は現在38・5%の関税を最終的には9%へ大幅に引き下げる。生鮮野菜も即時ないし6年目までに関税を撤廃する。当初の予想よりもはるかに後退した内容だ。
関税率の引き下げや撤廃で、牛肉や豚肉、バターなどの輸入食料品の値が下がることで、例えばハンバーグや牛丼などが安くなると歓迎する向きもあるが、果たして歓迎するばかりでいいのか。輸入される食品などの安全基準は各国バラバラで日本より甘いのが実情であり、安全性が担保されない食糧が大量に輸入される恐れがある。食品添加物や残留農薬などで、さらに規制緩和する動きがあるのに加え、遺伝子組み換え食品の規制撤廃が迫られることも予想されている。したがって、安心・安全な食糧の確保はよりいっそう困難になるだろう。リスクの方がはるかに多い。
また、今回の「大筋合意」は、安倍政権の掲げる「農業・農村の所得倍増」や「地方創生」とはまったく逆行するものだ。もし実施されれば、食糧自給率は14%に低下し、農業関連産業を含めた損失額は約8兆円にのぼるとの試算があるように、農業・農村は壊滅的な打撃を受け、地域社会の崩壊につながる。政府が掲げた40%超を目標とした食糧自給政策の放棄も決定的となる。地球温暖化や世界的な人口の急増、膨大な投機マネーにより、食糧危機はより深刻になる。国内自給体制の確立こそ優先されるべきだ。
TPPの条文には、進出企業がその国の政策や制度の変更などによって損害を被った場合、その国の政府を相手取って損害賠償の訴訟を起こせる、いわゆるISDS条項が含まれている。日本に進出したアメリカの企業から医療や保険などの分野で訴訟問題が起きる可能性がある。TPP交渉の合意は、農業・農民だけでなく、この国全体を日米の巨大な多国籍資本の餌食にする亡国の政治であると言わなければならない。
そもそも、2012年の総選挙で「TPP交渉参加反対」を公約して政見交代を実現したのが安倍政権であるが、その公約を年が明けると早々と破って交渉参加を表明し、アメリカに追随しながら密室談合で妥協に妥協を重ね、今回の「大筋合意」に至った。また、合意を急いだのは、アメリカ大統領選挙などの政治日程を考慮した結果とされるが、アメリカの本音は台頭する中国を包囲する政治・経済ブロックを早期に形成することにある。
今後、TPP加盟各国は国内手続き(批准)に入るが、条文によれば、すべての署名国が批准完了を通告して60日後に発効すると規定されている。2年経っても全署名国がそろわない場合は、署名国の合計でGDP(国内総生産)の85%以上を占める6カ国以上の通告が必要になる。85%以上になるには、日本とアメリカが含まれていることが必要になる。けれども参加国のうちアメリカやカナダなどで合意内容に否定的な動きがあり、紆余曲折が予想される。2年以内に加盟国全体の批准が行われるのか、現時点で不透明である。
アメリカのカーター国防長官は、TPPの軍事的メリットについて「空母をもう一隻持つのと同じくらい重要だ」と明言している。TPPは東アジアの安全保障問題とも密接に絡み合っていることを示すものだ。TPPが中国封じ込めの色合いを濃くすれば、東アジアの軍事的緊張は高まり、経済的にも混乱するだろう。
TPPがアメリカと日本の主導で発効することになれば、この国は強行採決された戦争法とともに、アメリカに追従し軍事的にも経済的にも同盟強化へ突き進むことになる。国民の安心・安全な暮らしと平和に生きる権利は奪われてしまいかねない。
農業者、消費者の枠組みにとどまらず、平和・人権、民主主義を大切にしたいと願う広範な人びとともに戦争法廃止のたたかいと合わせ、TPP反対の国民的な共同闘争を推し進めたい。
鍋島浩一(兵庫県農業問題懇話会事務局長)
- ダブルケア
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「子育て」がようやく終わり、ホッとしたのも束の間、自分自身の生き方を追い求める間もなく、今度は自分の、あるいは義理の親の「介護」をしなければならなくなる。さまざまなサービスが提供されながらも性別役割分業が未だに残っていることから、「子育て」も「介護」も女性にその負担が今なお重くのしかかりがちである。
ところで、「ダブルケア」という言葉をご存知だろうか。少子化、女性の晩産化を背景に、「子育て」と「介護」が同時進行する。つまり、子育てしながら同時に親の介護を担うという「ダブルケア」が生じる。それをサポートするシステムが十分にない中、自身の健康はあと回しにして綱渡りの日々を送らざるを得ない人がいる。早晩、社会問題化されるのは必至だ。
第1次「ダブルケア」はいわゆる団塊世代。そして、第2次「ダブルケア」は団塊ジュニア世代。6歳以下の子どもを抱える親の約4割が当事者に。平均年齢41歳、アラウンドフォーティ、アラフォー世代だと言われている。
さらに「トリプルケア」も存在する。「子育て」と「介護」、そして「仕事」だ。もちろん自己実現の達成のためもあるが、一馬力では到底暮らせない時代、生活のために働かざるを得ない人も多い。多くは“彼女たち”だが、経済的にも体力的にもギリギリの日々を送りながら自分自身のために生きる時間も場所も保障されないまま精神的に追い込まれていく日々。そんな“彼女たち”に目を向けなければならない。
核家族化・長寿化の流れのもと、長い間、「介護」は家族の負担になってきたが、介護の“社会化”がうたわれ、2000年に介護保険がスタートした。しかし、この春、介護保険は、膨れ上がる給付費を抑制するために、要支援者外し、特別養護老人ホーム入所者線引き等大きく見直された。3年ごとに引き上げられていく介護保険料が年金から天引きされるその一方で、必要な介護サービスを十分に受けることができず、再び家族介護へ逆戻りしかねないとも言われているこの時期に、潜在化していた課題「ダブルケア」が表面化してきた。
一人の介護者をサポートするためには、孤立させないための周囲の理解、「子育て」や「介護」サービスの質的・量的充実、さらに「ダブルケアマネージャー」の職業もやがて必要となってくるだろう。すでにダブルケアサポートに取り組んでいる自治体も現れはじめている。超高齢社会、課題が山積だ。
小林るみ子(神戸市会議員)
- 悪質な経営者と非力な監督署
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IT関係で働く28歳の女性労働者から賃金未払いの相談があった。女性はユニオンに相談に来る前に、労働基準監督署に2回行ったが、監督署からは、「ここの会社の何人かが申告に来たけど会社が払わなくて終わったからムリだと思う」と言われ、申告ができなかったという。
女性はいつ払われるか分からない不安と仕事への意欲を奪われ、退職を決意した。
7月末、請求書を会社に渡し、8月7日までに支払わなければ退職することを通告。8月5日に社長から「支払えない」と回答があったため、女性は7日以降は出勤しないことを伝えた。社長は激怒し、「8月24日の週まで仕事に来い」「会社にはルールがある」「ビジネスと社会人としての常識は違う」などと罵った。働いた分の賃金を払っていないにもかかわらず逆に罵る態度に怒りがこみ上げ、女性はユニオンに加入した。
8月10日、女性と一緒に監督署に。今回は申告は受理されたが、はじめから「監督署はお金を取るところではありません」と念押しされた。
数日後、監督署から会社を指導したと連絡があった。会社は売掛金1500万円が回収できていないから払えないと言い訳したとのこと。監督官は会社に対して、最後に責任を取る意味で倒産するよう指導したが、会社が拒否したという。結局、会社からの提案は3万円ずつの分割支払いだった。90万円以上の未払いがあり、完済するまでには30カ月以上かかる。
会社は8月末に3万円を振り込んできたが、現在働いている社員に対しては全額支払ったという。監督署が会社に確認すると、「辞めた人はアルバイトもできるし、雇用保険も受給できるから、生活に困らない」と返答したという。監督官もあきれて厳しく指導したらしいが、それでも会社の態度は変わらなかった。
その後、ユニオンから要求書を提出したが、会社は逃げ回り倒産させるという解答だけが届いた。
会社を経営する、労働者を雇用することへの責任が感じられない会社が増えている。経営者だから何でもできる、好きなようにできると思っているらしい。こんな会社は許せないが、こんなに悪い経営者を告訴できない監督署も腹立たしく思う。もっと声を上げる努力を忘れないで取り組みたい。
木村文貴子(神戸ワーカーズユニオン書記長)
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