「新社会兵庫」 3月24日号
 今は昔。かぐや姫に言い寄る貴公子がいた。姫が彼の誠意を問うたところ、彼は全体的には惹かれていると答えた▼姫は疑った。全体的には? 一切合財含めてすべてが全体的のはずなのに、この殿は「中味はともかく」という意味に使っていると。姫は不信感を抱き、月へ帰ることを決めた▼1200年後、この国は戦後70年を迎えた。節目のコメントに村山談話の精神を盛り込むことを求められた安倍首相は、貴公子の末裔でもあるまいに、全体的には引き継ぐと答え、「戦後70年の実績」も盛り込むと続けた▼侵略と植民地支配を、反省・謝罪した村山談話をぼかし、戦後の実績で覆ってしまう魂胆だ。「侵略の定義は定まっていない」と嘘をつき、戦後の実績から日本国憲法を抹殺しようとする首相。「全体的には」の意味を否定や雲散霧消の意に使っていることは疑いない▼多くの人が安倍政権の暴走を恐れている。暴走は危険だが、この車がモウモウたる暴言妄語の排気ガスを撒き散らし、日本語を損なうことは許されない。憲法を食い破るたびに「××事態」という妙な用語をつくり出し、手法が限界に来ると、それを取り去るという▼日本を取り戻す前に、しっかりした日本語を取り戻そう。
『いのちの讃歌』を聴きながら
 昨年12月の「平和のつどい」で歌っていただいた李政美(イ・ヂョンミ)さんのCDを毎日のように聴いている。もちろん当日も癒されたが、今、家でゆっくり味わい、さらに魅了されている。歴史修正主義、ヘイトスピーチなど重苦しい空気の中、心身ともに疲れることが多い今、色々な人とつながるためにも癒しの時間が必要と実現したコンサート。無理なお願いを聞いてくれた李政美さんに心から感謝している。
 CD『いのちの讃歌』は2011年2月の東京葛飾でのコンサートを編集したもので、でき上がったのは6月。東日本大震災・福島原発事故があり、政美さん自身も大切な友人を送り、またお孫さんの誕生があった年にできたものだ。澄みきった、ほんとうにのびやかな声にひきこまれる。声だけでなく、歌詞に物語があり景色が浮かぶ。曲は「遺言」で始まり、「つぼみ」「生きようよ」「ありがとういのち」「アリラン」「イムジン河」など17曲が収録されている。
 この間シリアで後藤健二さんらの殺害事件が起きた。高遠さんたちが捕まった時のように自己責任論がまたもや言われる。川崎における13歳少年のあどけない笑顔。乳幼児の虐待や人を殺してみたかったと言う女子学生の事件など、私には受け入れられない。国は平和主義を捨て世界での信用を無くし、拡がる貧困は子どもたちの心を闇の中へ突き落しているのか。
 福島原発事故から4年。津波に奪われた命、その後自ら絶った命、仮設住宅孤独死、命はあれど絶望の底にいる人々。原発事故では今もふるさとを追われた多くの人たち。政府も電力会社も責任をとらず、原発再稼働の声ばかりあげている。福島事故を教訓に「脱原発」を決断したドイツとなぜこんなに違うのか。安倍首相はメルケルさんの「脱原発」「戦争に対する反省」の呼びかけに応えるべきだ。
 5年前の平和のつどいに招いた「森の映画社」影山あさ子さんは今も沖縄・辺野古の新基地反対闘争を撮り続けている。先日届いたDVD『速報 辺野古のたたかい2014年10月~12月』には沖縄県知事選挙に病をおして応援にかけつけた菅原文太さんの全発言が収録されていた。命の最後の映像かもしれない。平和を語る人・農業者としての文太さん、神戸に招く話があったのに実現できなかったことが悔やまれる。せめて、このCDを文太さんに届けたかった。
 李政美さんの言葉を借りるが、「きれいな空気と土に恵まれて、新しい生命たちがのびのびといのちを謳歌する素晴らしい世界を心に思い描き」、さわやかな歌を聴きながら私は“お家カフェ”をしている。
(加納花枝)
あいつぐ労働災害の相談
 あかし地域ユニオンでは昨年来、マスコミ発表した有機溶剤の事案のほかにも労働災害の相談が相次いだ。
 その一つは、運送会社社長のパワハラによる自死の事案で、加古川労働基準監督署の不支給決定を不服として審査請求をしている。情報開示で得た労働基準監督署の意見書によると、激しいパワハラを受けて最初に入院したのは業務上と認められるが、その後、退院・復職しており、亡くなる直前の出来事が特に確認できないので業務上とは認められないというものだ。遺族とともに当時の同僚などを探して情報集めをしているが困難な作業となっている。
 もう一つは、ゴム会社での上肢に負担がかかる作業による在日ペルー人の腱鞘炎・変形関節症である。こちらも加古川労基署が不支給決定したため審査請求をしている。発症時に、最初に病院で受診した記録は明確だが、その後再受診するまで約1年間の空白期間があること、実際の作業時間の把握が難しいことがネックとなっている。
 現在、労災申請をしてヒアリングが続いている事案がもう1件ある。Aさんは、某コープで半年間にわたり月100時間の残業と上司の激しいパワハラを強いられて体調を崩した。この事案は、本人が正確に記録を取っていたこと、パソコンデータから労働時間を特定できたこと、そして何より一緒にユニオンに来た仲間が情報の裏付けをしてくれたことで会社(組合)は全面的に事実関係を認めて謝罪し、労災認定に協力しており、認定されるのは間違いないと確信している。ユニオンは、会社に本人の業務内容を変えるなどして働き続けられるよう具体策をとるよう申し入れ、いま会社は対応を検討中だ。
 3件にはそれぞれの困難さがあるが、それをクリアして認定を勝ち取るために何が大切かと考えると、本人の認識・記録はもちろん重要だが、決め手は職場に支えてくれる仲間がいることでないかと改めて痛感している。
 ユニオンに相談に来られる方は体調を崩したり、職場で孤立させられた方も多いので、無理なことを求めるようだが、「周りの仲間はどう思っていますか」「同僚と話をしていますか」と、仲間づくりの大切さを訴えるように意識している今日この頃である。それこそが労働組合の原点だから。

山西伸史(あかし地域ユニオン副委員長)