「新社会兵庫」 4月22日号
 鳥の鳴かぬ日があっても、安倍政権の集団的自衛権に関するこじつけ論議のない日はない。国権の最高機関である国会を軽んじて、内閣で憲法解釈を変えようとするのは、こじつけを越えている。労組でも規約の解釈権を執行部には与えていない▼憲法は権力を縛るものである。内閣が憲法解釈を云々することは、それ自体、独裁への道である。集団的自衛権の行使は憲法上許されないというこれまでの解釈でさえ、どれだけ多くの官僚や法律家が悪知恵を絞り、良心の呵責に耐えてつくりだしたものであったか▼そこまでして権力に仕えてきた内閣法制局の「努力」を嘲笑・足蹴にする如く、安倍首相は集団的自衛権容認の憲法解釈の変更を企んでいる▼そもそも自衛権とは?国連憲章は自衛に限って武力行使を認めている。つまり、武力行使は「自衛権行使」を装わなければならない▼憲法制定時(67年前)、吉田首相は明言している。「(自衛権は否定しないが)第9条2項においては一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争もまた交戦権も放棄し」ている▼こじつけの難路も9合目と安倍は考えているだろうが、最後の1合目の不可能さを国民は見せつけなければならない。
看過できぬ憲法25条の形骸化/自治体の果たすべき役割とは
 健康で文化的な生活は保障されているのか
 昨年の生活保護費の基準額の切り下げを機にそれと連動した多くの制度が改悪された。そして、この4月からは消費税率が引き上げられ、さらに高校授業料無償化制度への所得制限導入、復興特別税での住民税増税、公的年金支給額減額、70歳から74歳の医療費の窓口負担増額、医療費の初診料・再診料の増額、厚生年金保険料増額等々、医療・年金・介護等の分野での制度改悪が目白押し……。市民の生活がより厳しいものになった。
 にもかかわらず、神戸市では特定の誘致企業に多額の減税等の優遇措置が行われようとするその一方で、市民へは消費税率引き上げを理由にした公共料金等の値上げ、老人医療費一部負担金増額、母子家庭医療費助成対象者の削減、国民健康保険料の(算定方式変更による保険料の)不十分な軽減措置で、ますます生活は厳しいものになろうとしている。
 食費も医療費も教育費も切り詰める日々、どこに健康で文化的な最低限度の生活が保障されていると言えるのだろうか。これら一連の改悪に歯止めをかけられなかった私たちの運動の弱さもあるが、だからと言ってめげていてはいられない。“鍛えるべきは我らが力”である。
 子どもたちのこれ以上の犠牲は許されない
 1馬力では到底暮らしていけない時代。待機児童解消は全国の自治体の喫緊の課題だ。そんな中、1年前、横浜市が待機児童ゼロ宣言を出した。しかしその後、これがきっかけとなってさらに待機児童が増えたそうだ。まさにいたちごっこ≠セ。しかも数≠フ解消に走る陰で質≠フ問題も問われてくる。あの痛ましい事件を起こした「ネット託児」もその一つだと言える。ネットのベビーシッター仲介サイトを通じて行う「ネット託児」の存在を今回の事件ではじめて知った人も少なくはないだろう。安い保育料、高い利便性、「何が起きても保障はない」というリスクを承知で頼らざるを得ない利用者の置かれた現実、行政のチェックの目が行き届かない中ではびこった「ネット託児」。その需要は確実に高まっている。
 今、事件の母親へのバッシングが続いている。しかし、母親一人を悪者にして済む問題でないことは明らかだ。国も「ネット託児」の実態調査に遅ればせながら踏み切った。神戸市にも同様の実態調査を求めたい。また、事業者を自治体や利用者がチェックできるシステム作りも必要だ。相談窓口も設置しなければならない。子どもたちのこれ以上の犠牲を許してはならない。
 ホームレス等の排除につながらないか
 東京の多摩川河川敷で暮らすホームレスの人たちの暮らしを取り上げたあるテレビ番組のナレーターが、ホームレスの人たちを「効率を追い求め、競争ばかりで息苦しくなってしまった私たちの社会の姿そのもの」と表していたことが印象に残る。その人たちが生活の糧にしているのが空き缶集めによる収入だ。今は相場が下がり1s50円、2日間精一杯頑張って60s集めても3千円だ。それでも回収という労働を通して懸命に生きている。
 ところが、この間、全国の自治体で「空き缶持ち去り禁止条例」とやらが制定され始めている。神戸市も例外ではない。空き缶の回収によって生活を維持している人たちにとってその手段が奪われてしまうことは直ちに命の危機を招いてしまう恐れがある。にもかかわらず、神戸市は、対象者も根拠も目的も不明瞭なまま安易に一律に条例化に踏み切ろうとした。これは結果として、ホームレス等の生活困窮者の社会的排除に結びつく危険性があることは明らかだ。今年10月にこの条例が施行されることになった神戸市だが、「生活困窮者の排除につながらないよう運用に配慮する」と付け足している。施行までに当事者や支援団体による神戸市への申し入れはぜひ行ってほしい。やれることはまだある。
 背景はこの国の貧困な社会保障制度
 格差・貧困社会を象徴するこのふたつの問題については様々なご意見があるだろうが、共通して言えることは、これらの背景にはこの国の雇用施策や社会保障制度の不十分さがあるということだ。
 そうである以上、自治体は様々な法の裏に潜む落とし穴≠ノも目を向けることを忘れてはならない。
小林るみ子(神戸市会議員)
子どもたちにしてやれること
 春は出会いと別れの季節である。我が家の息子と娘もこの3月に無事小学校を卒業した。入学の時は、明るいが空気が読めない息子と、内弁慶の割に引っ込み思案の娘。2人だけ違う保育所からの入学なので、いじめられたらどうしようとか、心配で仕方がなかった。おまけに、4月1日から、それまでは親が送り迎えしていたのに、2人だけで、学童がある児童館まで行かなければならないのである。リュックを背負って出かける2人の背中を見送るときに思わず涙が出てきたのを今でも鮮明に覚えている。2年生の時、母の介護や夫のメンタルの関係で、家庭が少しバタバタしたせいか、娘に円形脱毛症ができた。それを同級生にからかわれて泣いてしまったと、学校から連絡があった時は、さすがに心が折れてしまった。3年生の時、PTAの役員に選ばれて学年長をやるはめになり、てんやわんやだったが結構楽しかったりもした。5年生の時は、夫が入院をし、毎日私の帰りが遅くなった時に息子の情緒が不安定になり、風呂で急に泣き出し、不安で仕方がないと訴えられて、そんな状態が続いてうろたえてしまったこともあった。娘もこの間の「特定秘密保護法案」の強行採決の様子をテレビで見て、すごく不安になったようで、「ドキドキして眠れない」と訴えてきたりした。
 ちょっと考えたぐらいでこれだけ出てくるのだから、6年の間にいろいろな出来事があった。先生が家に来られたことも何度もあった。子どもたちもその時々で大変だったろうが、親も大変だった。しかし、大きくなるにつれて、親がしてやれることが限られてくる。先生に謝るか、励ますぐらいである。友達との関係、ストレスのやり過ごし方など、子どもが自分自身で克服しなければならないことがほとんどだ。小学校入学の前は、登校拒否になったらどうしようかという不安でいっぱいだったが、今年中学入学、そして高校と早ければあと6年で社会に出ていく。大学に行ったとしても10年で社会人である。それを考えると、一気に不安になる。
 不安定雇用労働者が激増し、とても自立できないような賃金しかもらえない若者たち。正規雇用にありつけても、労働強化が進み、朝から晩まで働かされて、自分の時間が持てないまま、家庭を持つこともままならない状況に追い込まれている人たち。今の社会では、当たり前のようになってしまっている。子どもたちに直接してやれることは限られてくる。しかし、労働者が健康で安心して働ける社会をつくることが自分自身のためにも、子どもたちのためにも一番重要なことだと改めて感じた春であった。
(Y・S)
ブラックな「名ばかり店長」
 企業が労働者を安くこき使う手法として「名ばかり管理職」の問題が取り上げられる。単なる社内の職制にすぎない管理職を労基法上の「管理監督職」とみなし、残業代をごまかす手法だが、私たちがいま直面している争議では、それとはまったく違う「名ばかり店長」に業を煮やしている。
 昨年7月、某家電量販店の西脇店で働く20代の労働者から相談があった。職場で暴行を受け、監督署へ相談に行くと警察にも届けた方がよいとアドバイスを受けたというのだ。話を聞くと、入社からの4年半、店長からいじめ・パワハラを受け続け、昨年6月頃からそれがエスカレートして、あわや失明かというような「暴行事件」が発生した。被害者は心にも大きな傷を負い、休職を余儀なくされている。
 会社には、日本を代表する産別労働組合があり、殴る、蹴るの暴行を加えた一人は組合の委員長であった。そうしたことから、自分の所属する組合に相談できず、ユニオンへの相談となったのだ。
 早速、団体交渉を申し入れたが、会社は加害者らから2度行った聞き取り結果の内容を述べるに留まり、一向に事件と向き合おうとしなので、4月5日、ユニオンや地域の仲間の協力を得て、抗議行動に取り組んだ。申し入れには店長が応対に出たが、終始ヘラヘラとした態度で、会社の聞き取り調査結果についても「知らない、見ていない」とうそぶく始末。自らが店長を務める職場で起きた暴力事件に対して、「自分はいなかった」「関係ない」と、まったく店長としての自覚も持っておらず、本当にお前は店長か?と耳を疑った。
 こんな店長の下、日常的に暴力が支配する職場で、誰も止めることができず、誰ひとり外部に通報することさえできない状態になったのではないかということを強く認識した。店長をはじめ加害者が、事実を認め、心から反省しない限り、職場復帰はできないし、誰も働き続けることができない。それができないと言うのであれば、こんなブラック企業は日本から退場していただくしかない。
塚原久雄(ひょうごユニオン事務局長)