「新社会兵庫」 9月25日号
 「先占の法理」―どの国にも属していない無主の土地は、他の国家より先に支配を及ぼすことで自国の領土にできるという国際法の原理のことだ。無主先占ともいう▼かつてアフリカに進出したヨーロッパの諸国は、そこの大地がどの国家にも属していなかったと“合法的”に自国領に編入していった。しかし、そこには国家こそ組織していなかったが住み続けていた人びとはいた▼今から思えばとても正義に適うとは言い難いこの法理により、竹島も大日本帝国・島根県に編入された。竹島や尖閣の帰属をめぐる隣国との争いも、実は先占法理の下敷きの上にフィクションとしての固有の領土を双方が主張し合っているように見える。でも今は21世紀、骨董品の帝国主義時代の物差しを持ち出して領土を争うのは進歩がない▼尖閣の、争いはまず棚上げし、解決は次世代以降に委ねる―日中国交回復、平和条約交渉で双方の先人たちが編み出したこの知恵はなかなかのものだ。自民にも民主にも後続にその知恵を発展させる器量がなく、「国内法に沿って粛々……」などという無内容な言葉を振りかざすから、しなくてもよい対立ばかりが際だってくる。竹島も「固有の領土」を言い立てるだけでは対立のみが増す。
顕在化し始めた震災石綿被害
リスクコミュニケーションで十分な検証作業と対策を
震災アスベスト被害の顕在化
 震災によるアスベスト被害が顕在化し始めている。
 阪神・淡路大震災から13年後の2008年3月、震災時に倒壊建造物の解体・撤去作業に従事した男性が、悪性胸膜中皮腫を発症し、姫路労働基準監督署から労災認定された。
 そして先月、震災直後の約2カ月間、アルバイトとしてガレキの撤去・片付け作業に従事した宝塚市の男性が中皮腫を発症した件について、西宮労働基準監督署が労災であると認定した。さらに、震災後のガレキの除去作業に約3年間従事した男性が中皮腫を発症し、神戸東労働基準監督署から労災認定されたことも明らかになった。
 また、震災の直後から清掃車に乗りガレキを含んだゴミの収集作業に従事した明石市職員が、中皮腫を発症し、公務災害の申請を行った。当時、ゴミ置き場には、家庭系のゴミだけではなく、地震で壊れた建材やスレート板などのガレキが置かれており、ガレキを含んだゴミの収集は3カ月ほど続いたとのことだ。
懸念されていた事の現実化に向き合わねばならない
―リスクコミュニケーションを
 アスベストによる病気は潜伏期間が長いことが特徴であるが、同時期に3人の方がアスベスト特有のガンである中皮腫を発症しているのである。懸念されていたことが現実化しつつある事実に、私たちは向き合わなければならない。
 井戸・兵庫県知事は、2008年3月に震災アスベストによる初めての労災認定が行われた直後に、「震災との因果関係は薄い」との認識を示した。また、今年7月9日の定例会見においては、明石市職員が中皮腫を発症したことに触れ、「原因が震災だとはなかなかなりにくいのではないか」と述べ、震災との因果関係は低いとの見方を示した。だが、先月の2例の労災認定報道以降、知事からのメッセージは未だに発せられていない。
 私たち「NPOひょうご労働安全衛生センター」は、8月25日から「震災アスベスト健康被害ホットライン」を取り組んでいるが、すでに90件を超える相談が寄せられている。2カ月間のガレキ処理で中皮腫を発症したという衝撃は大きく、相談の圧倒的多くは健康不安に関するものである。
 関係者(リスクを発生させる者、管理する者、リスクの影響を受ける可能性のある者、外部の専門家やNGOなど)がリスク情報を共有し、対策を検討、実行する過程をリスクコミュニケーションと呼ぶ。
 法律などで明確な基準があり、それを守ればリスクは問題にならない、という状況は現在では少なくなっている。住民などは「リスク・ゼロ」を求め、行政などがそれを安易に根拠なく保証してしまう状況などがリスク管理失敗の典型例であり、「因果関係が薄い」という対応も同じである。
 アスベストのリスクは常に存在するという認識に立ち、震災アスベストのリスクが増大している現状を踏まえた上で、どのようにリスクを低減してゆくのかを関係者で協議し、実行するリスクコミュニケーションが求められている。
求められる阪神・淡路大震災時の検証作業と
それをもとにした東日本被災地対策
 現在、東日本の被災地では復旧・復興が進められているが、震災と津波により損傷を受けた建物が大量に残され、ガレキの処理には数年という時間を要すると言われている。今後、これら建材の撤去と廃棄が行なわれる中でどのようにアスベストが飛散し、どのようにアスベスト曝露の可能性が生じるのかということは、世界的にも経験したことがなく、そのような未知の領域の中で人々のアスベスト曝露を予防する対策を行う必要が生じている。
 阪神・淡路大震災を経験した私たちが発信しなければならない課題のひとつがアスベスト問題である。そのためにも、1995年当時に遡り、アスベスト飛散状況や作業実態など、もう一度検証する作業がいま求められているのではないだろうか。
西山和宏(NPOひょうご労働安全衛生センター事務局長)
領土問題の気がかり
 最近気がかりなのは、竹島、尖閣諸島など領土問題でナショナリズムが掻き立てられるような動きがあること。偏狭なナショナリズムがまかり通ってろくな事がない。
 私は、学校の地理・歴史の授業で竹島、尖閣諸島について習った記憶はなく、それらの存在も、抱える問題も、近年認識した次第。でも、世の中が騒ぎ始めると、私の周りの人たちもテレビや何かで聞いた情報をもとにコメントを言い始める。その結末はたいてい、何となく日本びいきというか外国批判になっていく。
 私は常日頃、自分が確かめられない事で大きな判断をしたくないなぁと思っている。竹島が歴史的に見て韓国固有の領土か日本のものかなど、ちょっとやそっとの勉強で私にわかるはずはないと思うので、コメントはしない。
 去年秋、以前韓国語を教えていただいた韓国人の先生を訪ね、クラスメートと蔚山、慶州を旅行したときのこと。「もう、竹島、あげます!」と私が気楽に、投げやりに言ったら、先生が笑いながら「そんなこと韓国人の前で言ったら大変ですよ!独島は韓国のものなんだから……」と返されびっくりしたが、相手の立場に立てばそうなるかと納得した。そして、先生は続いて興味深いお話をされた。韓国の国宝にもなっている、とても有名な朝鮮時代の地図(木版)には独島は載っていない。韓国で新しいお札の裏にその地図が載せられることになったとき、それはまずいので独島を書き加えたとのことだ(その地図も、手描きによる写本では独島が描かれているそうだ)。>
 テキトーで、一方的な知識でこの議論に入っていくのは、双方にとって決してためにならないと思う。私は、竹島(独島)がどちらの領土かは、歴史学者など専門家に任せたい。ぜひ、両国で一緒に研究し、共通認識を作ってほしい。ドイツ、ポーランドでは、長い間、お互いの歴史教科書の記述について共同研究し、一定の成果をあげているという。日韓でも、民間では歴史教科書について共同作業を行なっている。
 私が一番心配なのは、領土問題でお互いの国民がナショナリズムを煽られ、むだな対立を生み出すことだ。そして、「紛争解決」と称して自衛隊など武力が使われることだ。私たち日本人は武力で紛争を解決できないことを、痛いほどに学んだのではないか。
 憲法を護る活動はここでも求められている。憲法9条がまた踏みにじられるのは絶対に避けたい。
(川)
労働行政の手ぬるさ
 8月、新しい分会を結成した。兵庫区の古紙回収業の会社だ。30人の営業所の半数近くが組合に加入、他の2カ所の営業所からも数人が加入した。
 相談のきっかけは、賃金の不利益変更だった。水曜日に提案された不利益変更の同意書にサインを求められ、土曜日までに提出しなければ解雇されるとウワサが広がったからだった。
 賃金の不利益変更の提案の背景は、社員が労働基準監督署に行なったサービス残業の申告だった。監督署から、就業規則の周知ができていなかったことや残業代の支払いについて指導され、会社は残業代を払わないでいい方法を考えた。ここ数年で日給が800円も下げられ、夏一時金は未払い残業代の清算だとすり替えられたことにガマンが限界に達した。
 勤務時間は7時〜16時までだったのが、昨年10月いきなり6時30分〜16時30分までと1時間延長された。が、その1時間分は残業とはなっていなかった。車のメンテナンスや洗車などは労働時間として計算されず、有給休暇は勤続2年で7日間しか付与されない。何年働いても7日しかなかった。仕事中に熱中症になっても労災にならず、事故を起こせば修理代は自己負担になる。正社員と言っても日給月給で、休めば皆勤手当もカットされるため休めない。
 8月末に第1回目の交渉。会社は「就業規則が提案できるのは1カ月後」という。会社は法律を守らなくてもペナルティがなく、社員には賃金などの改悪提案に合意をさせようとする会社の姿勢に呆れた。会社は言い訳のように「古い会社なので」と連呼していたが、その言い訳は通じない。
 今年初め結成したM分会も就業規則がない会社だった。振り返ると労働行政の手ぬるさを感じる。就業規則が定められているのか、就業規則がどのように周知されているのか、そのことを監督するのが労働基準監督署の役割である。監督できていないから問題が起こり、労働者が苦しんでいる。
 10月からの監督署との交渉では、これまでの事例をまとめ、監督署を追及したい。
木村文貴子(神戸ワーカーズユニオン書記長)