震災アスベスト被害の顕在化
震災によるアスベスト被害が顕在化し始めている。
阪神・淡路大震災から13年後の2008年3月、震災時に倒壊建造物の解体・撤去作業に従事した男性が、悪性胸膜中皮腫を発症し、姫路労働基準監督署から労災認定された。
そして先月、震災直後の約2カ月間、アルバイトとしてガレキの撤去・片付け作業に従事した宝塚市の男性が中皮腫を発症した件について、西宮労働基準監督署が労災であると認定した。さらに、震災後のガレキの除去作業に約3年間従事した男性が中皮腫を発症し、神戸東労働基準監督署から労災認定されたことも明らかになった。
また、震災の直後から清掃車に乗りガレキを含んだゴミの収集作業に従事した明石市職員が、中皮腫を発症し、公務災害の申請を行った。当時、ゴミ置き場には、家庭系のゴミだけではなく、地震で壊れた建材やスレート板などのガレキが置かれており、ガレキを含んだゴミの収集は3カ月ほど続いたとのことだ。
懸念されていた事の現実化に向き合わねばならない
―リスクコミュニケーションを
アスベストによる病気は潜伏期間が長いことが特徴であるが、同時期に3人の方がアスベスト特有のガンである中皮腫を発症しているのである。懸念されていたことが現実化しつつある事実に、私たちは向き合わなければならない。
井戸・兵庫県知事は、2008年3月に震災アスベストによる初めての労災認定が行われた直後に、「震災との因果関係は薄い」との認識を示した。また、今年7月9日の定例会見においては、明石市職員が中皮腫を発症したことに触れ、「原因が震災だとはなかなかなりにくいのではないか」と述べ、震災との因果関係は低いとの見方を示した。だが、先月の2例の労災認定報道以降、知事からのメッセージは未だに発せられていない。
私たち「NPOひょうご労働安全衛生センター」は、8月25日から「震災アスベスト健康被害ホットライン」を取り組んでいるが、すでに90件を超える相談が寄せられている。2カ月間のガレキ処理で中皮腫を発症したという衝撃は大きく、相談の圧倒的多くは健康不安に関するものである。
関係者(リスクを発生させる者、管理する者、リスクの影響を受ける可能性のある者、外部の専門家やNGOなど)がリスク情報を共有し、対策を検討、実行する過程をリスクコミュニケーションと呼ぶ。
法律などで明確な基準があり、それを守ればリスクは問題にならない、という状況は現在では少なくなっている。住民などは「リスク・ゼロ」を求め、行政などがそれを安易に根拠なく保証してしまう状況などがリスク管理失敗の典型例であり、「因果関係が薄い」という対応も同じである。
アスベストのリスクは常に存在するという認識に立ち、震災アスベストのリスクが増大している現状を踏まえた上で、どのようにリスクを低減してゆくのかを関係者で協議し、実行するリスクコミュニケーションが求められている。
求められる阪神・淡路大震災時の検証作業と
それをもとにした東日本被災地対策
現在、東日本の被災地では復旧・復興が進められているが、震災と津波により損傷を受けた建物が大量に残され、ガレキの処理には数年という時間を要すると言われている。今後、これら建材の撤去と廃棄が行なわれる中でどのようにアスベストが飛散し、どのようにアスベスト曝露の可能性が生じるのかということは、世界的にも経験したことがなく、そのような未知の領域の中で人々のアスベスト曝露を予防する対策を行う必要が生じている。
阪神・淡路大震災を経験した私たちが発信しなければならない課題のひとつがアスベスト問題である。そのためにも、1995年当時に遡り、アスベスト飛散状況や作業実態など、もう一度検証する作業がいま求められているのではないだろうか。
西山和宏(NPOひょうご労働安全衛生センター事務局長)