新社会兵庫ナウ

私の主張(2022年11月23日号) 
杉並区長選の勝利に学ぶ
地方自治から民主主義を

2022/11/23
 全国から注目された今年6月の東京・杉並区長選挙。盤石と言われた現職区長をわずか187票差で押さえ岸本聡子さんが勝利した。岸本さんは選挙の3か月前までベルギー在住、公共政策の専門家として反グローバリズムの研究を行うシンクタンクで活動、水道など公共サービス再公営化を訴え、主にEU各地で取り組みを広げてきた。その彼女が帰国したばかりの4月に出馬表明し勝利をもぎ取った。

 勝利の背景は選対本部長、内田聖子(しょうこ)さん(NPO法人アジア太平洋資料センター共同代表)をはじめとする杉並の市民運動だ。
 杉並区は、原水禁運動発祥の地でもあり、市民運動・住民運動の長い歴史がある。近年は、3期続く前区長が住民・利用者の声を無視して強引に推し進めた児童館廃止や区民施設統廃合、街並みを壊しての道路拡幅や再開発に反対する住民運動が盛り上がっていた。
 前年の衆院選では野党統一候補として立憲民主党の吉田晴美氏を押し上げ、自民党幹事長だった石原伸晃氏を破って当選させている。
 こうした活動の積み重ねの上に個人参加の「住民おもいの杉並区長をつくる会」を立ち上げ、市民主導の区長選挙を進める核となっていった。年明けには住民運動で持ち寄られた課題を整理した政策がまとまり、誰が候補者になっても支えられる体制がつくられたところへ、まさにうってつけの公共政策の専門家、岸本さんが候補者として、パズルのピースのようにぴったりと納まったのだった。
 こうして住民のイニシアティブで進められた運動をさらに野党7党(立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組、社会民主党、新社会党、緑の党グリーンズジャパン、杉並生活者ネットワーク)が支援、補強していく。

 住民ひとりひとりが実現させたい課題を持った選挙戦は、候補者を通すことによってそれらを実現させるという主体的な取り組みへとつながっていった。そこへ旧来の選挙戦の枠にとどまらない岸本さんの個性も相まって、新たな支持者が掘り起こされ、選挙戦は躍動的に進められた。
 その1つが「一人街宣」だった。自発的に始められ、杉並区内すべての駅頭に立ち、自分の政策を訴える。活動経験もない市民が行政から一方的に下ろされる都市計画に対して「私たちはこの街をつくってきたという自負がある」と訴える姿に、自分事として政治に関わる力強さをまざまざと感じさせられた。

 こうした広い層を引き付ける選挙戦を可能にしたのは岸本さんが行政、地方自治への関わり方を明快な言葉と姿勢でアピールしたことにある。選挙戦の戦略は「対話」。街頭演説で立ち止まった人に話しかけながら始まっていった。候補者が地べたに座り込み、住民が代わる代わるマイクを持っての訴えを聞く対話集会スタイルの場面も。選挙戦が始まってからも対話の中でつかんだ課題を新たに政策に加えるなど、「さとこビジョン」は随時更新されていった。

 こうした「対話重視」の岸本さんの行動はEUでの水道再公営化をめざす運動の中で培われてきた。現在、ヨーロッパで広がっている「ミュニシパリズム」については彼女の著書『水道、再び公営化!』(集英社新書)の中で紹介されている。地域にとって大切なことは自治体任せにせず、地域の人が集まって議論し、自律的に決めていくボトムアップ型の自治の姿だ。そこでは公共サービスや公的所有の拡充、市政の透明性や説明責任の強化などの政策が重視される。企業の利潤や市場のルールよりも市民の社会的権利の実現を優先して取り組む。

 区長に就任した岸本さんは確固とした方向を持ちながら、現在の杉並で踏み出す一歩について次のように語っている。「私に投票してくれなかった人と話したい」と。分断・対立ではなく、ともに住民にとってのベストを見出していこうとする姿勢だ。そのためにも日本一透明性の高い区政にしたいと情報公開も積極的に行うという。
 岸本さんを区長に押しあげた市民も、議会傍聴、区政チェック、政策提言など、「住民おもいの区政」に責任を持つ覚悟で動き出した。

 杉並の経験に学び、住民主体の街作りにむけて各地での取り組みへと活かされることを願ってアイ女性会議ひょうごでは別記の講演会の開催を決め、参加を呼びかけている。
 丸山裕子(アイ女性会議ひょうご)