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【ひきこもりの居場所づくり】
NPO法人ピアサポートひまわりの家 宍粟市の「歩歩―ぽぽ」を訪問

2020/09/29

インタビューに応えてくれる施設長の松本むつみさん(右)と職員の前野伸輔さん=宍粟市山崎町

 全国で100万人に上るといわれるひきこもり。当事者や家族の社会的孤立、生活困窮など問題の長期化が社会問題となり、政府も支援事業を進めるなどようやく問題に目が向けられだした。だが、行政相談窓口は増えても、受け入れ先となる「居場所」を設置している自治体は2割にも満たないのが現状だ。そんな中、宍粟市山崎町にある「ひきこもりの居場所 歩歩(ぽぽ)」は、当事者たちが設立や運営にかかわるなど、全国的にもユニークな取り組みが注目されている。施設長の松本むつみさんと職員の前野伸輔さんにお話を伺った。
 
 松本さんは退職後、高次脳機能障害の家族会の方や地域の主婦らと古民家を利用したカフェ(居場所)を作ろうと「NPO法人ピアサポートひまわりの家」を2012年に設立。「福祉の店」と掲げることに疑問を感じ、街行く誰もが立ち寄りたいおしゃれな店にすることにこだわった。美味しいコーヒーにコンサートなども企画したいと夢は膨らんだ。最初の2年はみな無報酬で、松本さんも身銭を切っての運営だったが、ただただ楽しかった。「カフェ ひまわりの家」は口コミで広がり、高齢者、アルコール依存、若年性認知症の人など、様々な人が立ち寄る店になった。
 カフェに手伝いに来る若者の中でまるで職員のように動く子たちがいた。ひきこもりだと言われている子たちだった。若い主婦ボランティアから給料が出るなら長く働きたいとの要望も出た。何とか賃金が払えないかと役所に相談したところ、「地域活動支援センター」の立ち上げを助言され、2014年4月に設立。助成を受けて経営が軌道に乗り、バイトや職員の給料が払えるようになった。
 ひきこもりのスタッフたちのことが口コミや新聞で紹介され、カフェには当事者やその家族などの訪れが増え、経験を交流することも増えた。松本さんは、ひきこもり当事者たちが「自分も他者も元気になる」姿を目の当たりにし、「こんな場所がもっと早くあったら長いことひきこもらずに済んだかもしれない」との声に常設の「ひきこもりの居場所」づくりをまかせようと決心した。その動きの中心にいた前野さんが、いま、「歩歩」の職員として働いている。
 コロナ禍で、「歩歩」の日常は交流会が月1回のみだが、普段はそれぞれが好きな時に来て、ゲームや漫画を読んだりして過ごす。前野さんは就労訓練なども行うが、何よりゆっくり一緒に過ごし、気楽に人と関わる感覚を見つけてもらうことを大事にしているという。根底には、自身の10年間のひきこもりでいろんな支援施設に通ったが本当に理解してもらえていると感じることができなかったしんどさの経験がある。「ひまわりの家」で初めて同じ経験をした人と出会い、1人ではないという安心感を得られたことを大事にしたいという。
 今の悩みは運営費の問題。市の委託費は人件費で消える。他の経費は全てNPOの持ち出しで厳しい状況だ。さらに居場所が必要な人にどのようにPRして広げるか。インスタグラムも開設したが、今はイベントも開けず発信できていない。チラシや会報を作り戸別訪問もするが、「出て来い」というプレッシャーにならないように常に気を配る。ひきこもりの人は顔を知られたくないため身近な所を敬遠する。もっと他の地域でも居場所ができ、自治体間で受け入れ先の交流ができるような制度がほしいし、自分たちの役割も知ってもらいたいと感じている。
(岡崎彩子)

「歩歩」の前に立つ前野伸輔さん